NewJeans以降のK-POPはどうなるのか。2024年に表れた「新たな変化」
新曲でより洗練されたNewJeansのサウンド
こうした変化をよりラディカルに、急進的に進めているのが、冒頭でも触れたNewJeansだ。 誰もが知るようにNewJeansは、EDM、トラップ、J-POPの要素を組み合わせて様式化したK-POPスタイルのアンチテーゼとして登場した。90年代のR&B、2ステップ、UKガラージ、ドラムンベース、ボルチモア・クラブ、ジャージー・クラブなどを取り込んだサウンドや、Y2Kリバイバルの流れを汲むストリートファッションで、強烈なインパクトを与えた。 そのなかで、デンマークのミュージシャンであるエリカ・ド・カシエールやスメーツが制作にかかわるなど、非アメリカ的な要素を加えてきた。さらに、そのリラックスした気配や憂いと安心感を共に感じさせるメロディ感覚は、源流をたどればブラジルのボサノヴァや、フランスのエリック・サティの作品にも行きつくだろう。 そして新曲「Bubble Gum」「How Sweet」を5月に発表し、「How Sweet」ではマイアミベースのサウンドを取り入れ、より洗練された楽曲で充実を示した(今後、彼女たちの活動に制限がかけられないことを、切に願うばかりだ)。 NewJeansはボルチモア・クラブやマイアミベースなどアメリカの中で発展したスタイルも参照しており、「アメリカからヨーロッパへ」というスローガンでは語り切れない。というか、RIIZEやaespaやIVEにもアメリカ的なサウンドがないわけではない。ただ、どのアーティストも、強固に確立したK-POPの楽曲スタイルを、様々なかたちで更新しようとしてるのは確かだ。ヨーロッパ的なクラブサウンドの導入は、その一例に過ぎないのかもしれない。
従来のスタイルを引き継ぐ動きも
2010年代のK-POPスタイルから、全体が変化したわけではない。BLACKPINK以来、約7年ぶりにYGエンターテインメントから登場した女性グループBABYMONSTERの1stミニアルバム『BABYMONS7ER』は、EDMとトラップの特徴を持つ楽曲とともに、ガールクラッシュのスタイルを思い切り前に押し出している。 SEVENTEENの新曲「MAESTRO」も、様式化したK-POPのサウンドを下敷きにしている。そして、どちらの楽曲も、それ独自の魅力を放っている。 現在のK-POPシーンでは、一度確立したスタイルから脱却する動きもあれば、そのスタイルを引き継ぐ動きもある。今回は一つの見取り図を提示してみたが、今後、どのようなかたちにK-POPが変化していくかはわからない。「わからない」状態だから、現在のK-POPシーンを追いかけるのは面白い。何が起きるかわからない時こそ、「シーン」として音楽を聴いて調べていくことの楽しさがある。そして、全体としての動きが見えてくると、個別のアーティストの表現をより深く理解し、楽しむことができるのではないだろうか。
伏見 瞬(批評家/ライター)