「近いうちに日本に行く」と軽口をたたいたセルビアのハッカー集団リーダーはサイバー空間の闇に消えた 【サイバー空間の新たな犯罪者たち・後編】
ランサムドの「Moci Bosi」に盗んだデータを公開しない代わりに資金を払わせる交渉を本当にしたのかどうかを再度、質問した。「Moci Bosi」は本当に交渉をしたと主張したが、「組織の方針により、交渉の証拠は提供できない」とかたくなだった。「捜査を受けたら、『あれは冗談だった』と言う」と理由を説明した。捜査機関に言い逃れをするため、証拠を残さないようにしているのだという。「近いうちに日本に行くつもりだ。そこで直接インタビューを受けてもいい」と冗談なのか本気なのか分からないメッセージも送ってきた。 最後に「Moci Bosi」に連絡を取ったのは11月9日の未明だった。「交渉を本当にしたのか」と、もう何度目になるのか分からない質問をした。「あった。交渉は決裂した。うそをついているのは彼ら(東海地方のネット関連企業)だ」。短い回答の後、「Moci Bosi」はテレグラムの自身のアカウントを削除した。ランサムドのハッカー集団としてのアカウントは残していて「6人の関係者が逮捕された。メンバーは全員解雇した。未熟な人間を雇ったことが失敗だった」とメッセージが投稿された。ハッカー集団の解散宣言だった。
▽「うそがばれて取り繕うことができずに組織が崩壊」 ハッカー集団は最新のプログラム技術を悪用したコンピューターウイルスを駆使し、何重にも守られた企業の情報システムに侵入して、サーバーに保存された機密データや個人情報を盗み出す。盗んだと主張していたデータが、全く別の企業のものであることが露呈すれば、ハッカー集団の技術力が疑われる。そうなると企業はそのハッカーを相手にせず、「機密データを盗んだから資金を払うように」と脅されても、まともに取り合わなくなる。三井物産セキュアディレクションの吉川さんはランサムドの解散について「取材によってうそか勘違いがばれた。取り繕うことができずに組織が崩壊したのではないか」と解説する。「ドコモがサイバー攻撃で被害を受けたという、誤った情報が交流サイト(SNS)に拡散していた。風評被害を抑える一助になれたのであれば光栄だ」とも話してくれた。 ランサムドと決別したUSDoDは活動を続け、盗んだデータをダークウェブに公開している。「ランサムドとの関係について聞きたい」とハッカーフォーラムを通じてメッセージを送ったが、返信はなかった。インターネットの闇の中では、いくつものハッカー犯罪集団が生まれては消えていく。