川勝前知事の「公約破り」とそっくり…「リニア妨害の後処理」を託された新知事が見せた「川勝県政の片鱗」
■川勝前知事と全く同じ「公約の破り方」をした 最もよい例が福井、石川、富山の北陸3県である。 静岡県は工業出荷額が北陸3県を大きく上回る全国5位で全国屈指の「ものづくり県」を自慢している。 ところが、総人口約286万人の北陸3県には4医科大学あり、幸福度指標は客観的、主観的にも静岡県を大きく上回っている。 それで、鈴木知事は「幸福度日本一」の実現を目指すと言うが、「県東部地域の医科大学誘致」から逃げてしまい、いったい、何をするのか? 静岡県の医師確保策は月額20万円支給の「医学生奨学金」に頼っている。6年間で1440万円を支給し、9年間静岡県の病院で働けば、返済免除という大盤振る舞いの制度だ。9年間のうち、最初の5年間は新米の研修医期間だから、実際に医者として現場で働くのは4年間程度である。これでようやく全国40番目の医師数を確保しているのだ。 県内の勤務医からは「効果が薄い」と評判は散々である。 川勝氏は2009年7月の知事選に初出馬した際、県東部、伊豆地域の医師不足を念頭に「県東部地域に医科大学誘致」を公約とした。この公約を掲げたことで、県東部、伊豆地域の支持を得て、元副知事の自民党推薦候補を破り、初当選した。鈴木知事と全く同じである。 川勝氏は「早稲田大学医学部」設置を掲げてがむしゃらに取り組んだが、最終的に「静岡県の方角が“都の西北”ではないから早稲田に断られた」と何とも珍妙な理由を挙げて、「医大誘致」は頓挫した。 もともと川勝氏は政治家ではなかったから、強引に物事を進めようとして、さまざまな場所で衝突してしまった。リニア問題と全く同じである。 2期目以降、川勝氏は「医大誘致」を口が裂けても唱えなかった。 ■「人口減だからリニアも不要」と言い出しかねない 鈴木知事は、何でもやってやろうという浜松人気質の「やらまいか」を全面に押し出して、「やります!」を選挙スローガンとした。 「医大誘致」を力強く訴えたことで、沼津、三島など県東部、伊豆地域の住民たちは鈴木知事を信じ込んでしまった。 それなのに、「どんどん人口が減っていく中で、間もなく医師が余る。医学部の新設はハードルが高い」(鈴木知事)などトンデモない言い訳で、早々と撤退した。 これでは、“選挙詐欺”と言われてもおかしくない。 誰が考えても人口減少など理由にはならない。 日本の人口は、2050年代になると、毎年90万人ほど減り、「どんどん人口が減っていく」(鈴木知事)が、いまから25年以上も先である。 2056年に日本の人口は1億人割れが予測される。その時代になれば、もしかしたら、「医師が余る」時代になるかもしれないが、そんな将来のことをいまから言えば、リニア計画はじめすべての事業は不要となってしまうだろう。 いま静岡県で、緊急かつ必要な最大の課題は、浜松市に計画される「ドーム球場」ではなく、県東部地域の「医科大学」誘致であることは間違いない。 「県民の声をしっかり聞き、幸福度日本一を進める」(鈴木知事)ならば、浜松市民ではなく、熱海市民、沼津市民らの声をちゃんと聞くべきである。 ---------- 小林 一哉(こばやし・かずや) ジャーナリスト ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。 ----------
ジャーナリスト 小林 一哉