「最低限の暮らしを保障する」だけじゃない…。〈ベーシックインカム〉が中小企業にもたらす“大きな利点”
安定的な収入がなければリスクは取れない
感性価値には「正解がない」という特徴があります。生活者自身、「なんだか満たされない」、「もっとワクワクしたい」といった漠然とした不満や望みを持っていても、じゃあどうすればよいのか、答えは持ち合わせていません。 正解がないということは「やってみなきゃ分からない」ということですので、「たくさん試してみる」ことが最も有効な対応策になります。たくさん試し、顧客の反応を観察するうちに、しっくりくる答えが観えてくるのです。 そのためには、企業は試行錯誤に耐えるだけの財務的基盤を持つことが欠かせず、それを自前で作る必要があります。 不確実性の研究家であるナシム・タレブは、リスクの異なる2つの収入源を持つことを「バーベル戦略」と名付け提唱しています。 例えば、アインシュタインは特許庁で審査委員を務め、ベーシックインカム的な安定収入を得ながら、後に物理学に革命を起こすことになる歴史的論文を書いていたことが知られています。 世の中には、「リスクをとって裸一貫で飛び出す」ことを称賛する風潮がありますが、それは、よほど肝の座った人の話で、普通の人は、経済的な不安があるとリスクを取りにいけません。まさに「貧すれば鈍する」で、意欲も創造性も減退してしまいます。
安定収入を支える「関係性資産」をつくる
「便利なもの」と「感性価値が高いもの」は販売方法もまったく異なります。前者はマスメディアと非常に相性が良く、多額の広告費を使い、消費者の生活に入り込みます。訴求ポイントは「こういうものを、こういう価格で売っていますよ」といった定量的なものが主になります。 一方、後者の伝達には、それに関心を持つ特定の人に、ダイレクトかつ継続的に情報を発信することが求められます。それはSNSの登場により、低コストで可能になりました。 訴求ポイントも「商売への思い」や「製造へのこだわり」といった定性的なものが主になります。また、SNSは日記的な投稿が歓迎されるので、提供者の「人となり」を伝えることができます。情報の受け手は、提供者をまるで友人のように慕うようになり、情報を心で受け止めてくれるようになります。 提供者と顧客との関係性にも決定的な差異を生みます。 「万人受けする便利なもの」の購買は、「取引関係」の意味合いが強く、顧客が商品・サービスの対価を払えば関係は終了します。取引は決して楽しいものではなく、むしろ面倒を伴うので、できるだけ早く、楽に、安く済ませたいと願います。コンビニエンスストアがその典型で、だからこそセルフレジが歓迎されるわけです。 「感性価値の高いもの」の購買は、「推し活」の性質を有します。つくり手・売り手の人柄に「好感」を持ち、仕事ぶりや人柄に「信頼」を寄せ、商売の思いに「共感」を抱きます。 顧客は、商品・サービスの対価を払うだけでなく、提供者に感謝や応援の気持ちを投げかけます。支払ったお金は「おひねり」の性質を帯びます。 もはや顧客は、単なる消費者ではなく、提供者にモチベーションと、試行錯誤を支える財務的基盤を与える「生産者」なのです。 顧客は、自分が応援したことで、提供者が喜ぶ顔を見ることが嬉しいし、応援された側も「もっと喜ばれたい」と思い腕を磨くという、応援の循環が生まれます。 私は「好感」「信頼」「共感」を合わせて「関係性資産」と呼んでいます。関係性資産が醸成されると、業績は急に良くなったり悪くなったりせず、非常に安定します。それが「自前のベーシックインカム」と名付けた所以です。 心の充足という、正解がない望みに応えるためには、たくさんの試行錯誤が必要になります。そこには粘り強いモチベーションと、試行錯誤に耐えるだけの収入基盤が必要になりますので、それらの源泉である「関係性資産」を構築することが最も重要であると考えるのです。
米澤 晋也
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