オレンジ色の閃光、爆発音、白煙と突き刺さる金属片…岸田首相襲撃事件は、一歩間違えれば非常に危うい状況だった 間近にいた記者は「惨事ストレス」に
鈍い銀色の爆発物は、緩い放物線を描いて現職首相の足元に投げ込まれた。4月15日、土曜の昼。選挙応援のため和歌山市を訪れた岸田文雄首相を狙ったとみられる襲撃事件。白煙を噴き出した凶器は、直後に爆発する。深刻なけが人は出なかったものの、「あわや」の事態だった。 私は、内閣総理大臣に密着する「総理番」として、その現場にいた。今回の事件は結果的に被害が少なかったため、昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件に比べて人々の印象は薄いかもしれない。ただ、改めて振り返ると非常に危うい状況だった。悲惨な現場に直面した人が受ける精神的ショック「惨事ストレス」の存在は、これまでの事件取材で知っていたが、この事件で自分も実際になるとは思わなかった。(共同通信=広山哲男) ▽2分前、エビ試食パフォーマンスで上機嫌の首相 【AM 08:02】 首相は居住する公邸の車寄せで、足早に総理車に乗り込んだ。東京・永田町に、そぼ降る雨。前夜、自民党関係者は「明日は雨ですかねえ」と、聴衆の集まり具合を心配していた。願いむなしい天候の中、SP(警護官)車両を含む総理車列は羽田空港へ向けて滑り出した。
最初の目的地は和歌山市。衆院和歌山1区補欠選挙で、首相率いる自民党の公認候補は、日本維新の会の候補と競り合う情勢が伝えられていた。 【AM 10:03】 首相一行が乗った民間機は、小雨の関西空港に到着した。私は自民党職員らとワゴン車に乗り込み、首相の車を追う。 現地で待ち受けるのは、首相の選挙演説をICレコーダーで録音し、パソコンで文字に起こす作業だ。風雨はノイズとなり、録音の声が聞き取りにくい。車窓に打ち付ける雨粒を見て「今日は起こしが大変だな」と、のんきなことを考えていた。 【AM 11:17】 車列は和歌山市南部の雑賀崎漁港に到着した。200人ほど集まった聴衆は、生で見る首相の姿に拍手と歓声で沸き立ち、思い思いにスマートフォンのカメラを向けた。 首相は、出迎えた漁業関係者や尾花正啓市長と一言、二言会話し、地場の海産物PRのための試食場所へと歩いた。 【AM 11:22】