なぜ北海道コンサドーレ札幌の全選手は年俸の一部返納を申し出たのか…背景にある47歳の野々村社長との絆
クラブ創設以来の初タイトル獲得に王手をかけるも、ひっくり返された試合内容をクラブのトップとして悔しがった野々村社長は、着実な前進に手応えを感じながらこんな言葉を残している。 「僕としてはこの先もっと強くなっていくとしても、北海道出身の選手たちがレギュラーでピッチに立つようなクラブにしたいと思っている。なので、現段階では上手くチームは作れているのかな、と」 フロンターレ戦では小学生年代のU-12から一貫してコンサドーレで心技体を磨いてきた、菅大輝と深井一希の両MFがゴールを記録。東京五輪世代の菅は高校生年代のU-18からトップチームに昇格したDF進藤亮佑、MF荒野拓馬とともに、今シーズンの開幕戦でも先発している。補強戦略と同時進行でアカデミーへも先行投資してきた種が着実に芽を出し、花を咲かせつつある。 2015年からはJリーグの理事も務める、野々村社長のもとで歩んできた軌跡を「私たちは北海道への貢献を考えて活動しているクラブに賛同し、日ごろのトレーニングはもちろん、地域貢献なども含めて活動しています」と振り返った宮澤ら選手たちは、今回の年俸の一部返納をこう結びつける。 「クラブへの支援の先にある、北海道への支援につながると考えています」 2月下旬から中断され、再開目標が設定されては延期されてきた公式戦は、現時点で今後が白紙に戻されている。損失額を5億円と予想していた野々村社長は「予算を組み直す必要もあるし、金額がさらに増える可能性もある」と表情を引き締めながらも、クラブの公式ホームページ上にアップされたインタビュー映像のなかで選手たちの申し出を喜び、心から感謝している。 「自分も選手だった感覚で言えば、頑張ったことで得る報酬を削る決断は簡単ではない。全員が最初から『そうしよう』とはなかなかならず、選手たちも何度も何度も話し合って一致団結できたと聞いています。金銭的にどうこうということではなくて、この大変な時期を選手とクラブが一緒になって乗り越えていきましょうという意味でクラブにも勇気をくれる、僕からすれば仲間が増えたように思える提案でした」 野々村社長が言及した「仲間」とは『北海道とともに、世界へ』を目指す過程で、縁あって住むことになった北海道への支援・貢献を共有していくこととなる。喜びを覚えながらも、まずは組織のトップとして苦境を乗り越えるための最大限の努力を積み重ね、同時に年俸の返納が他のJクラブに対する同調圧力にならないような配慮を施しながら、新型コロナ終息後の世界をこんな言葉で表している。 「コロナの前の体制に戻すというよりもそれ以上の、コロナの前よりももっといいクラブに、もっといい北海道にしていくために、いろいろな行動を一緒にできたらと思っています」 異色にも映ったトップが誕生して8年目。大胆かつ斬新な施策の数々を介してJリーグを代表する敏腕経営者の一人となった野々村社長と選手たちを結ぶ絆は、新型コロナウイルス禍のもとでより強く、より太くなって、難局に直面しているコンサドーレを力強く前進させていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)