【MotoGP】ドゥカティMotoGP、チアバッティ離脱は影響大? マルケス加入に揺れる陣営はダッリーニャに権力一本化か
ドゥカティは2023年末にパオロ・チアバッティが同チームのスポーティングディレクターから退くことを発表した。これによりMotoGP部門においてはジジ・ダッリーニャの権力が強化されると見られている。 【ギャラリー】ドゥカティ・デスモセディチGP 全マシン・全ライダー(2003~2021) 2014年から同職を務めてきたチアバッティの異動には、ドゥカティの戦略も関わっている。ドゥカティは現在オフロード分野へと進出を進めており、2024年には国内レースレベルでのレース活動をスタートさせ、将来的に世界選手権へと進出する未来図を描いている。そして、そのオフロード部門のゼネラルマネージャーにチアバッティを据えたのだ。 ただ、ことはそう単純ではない。チアバッティは今後、グローバル・ゼネラルマネージャーであるダッリーニャではなく、CEOのクラウディオ・ドメニカリに直接報告を上げることになるなど、ドゥカティの声明にもそれはカモフラージュされて現れている。 そして言い換えれば、この異動はダッリーニャの立場を強化するモノでもあるのだ。 2024年、ドゥカティは陣営に8度の王者であるマルク・マルケスが加わる。ホンダに見切りをつけたマルケスが、グレシーニへと移籍したためだ。ドゥカティはこれまで陣営のライダーをうまくコントロールしてきたが、そのコントロールにおいてチアバッティの共感力や対話を通じて説得する能力はとても重要なモノだった。 同じように、チアバッティが重要な役割を負ってきた事のひとつに、ライダー契約の交渉がある。通常はあまり目立つモノではないが、チアバッティはこれまで衝突を起こさず、これをうまくまとめてきたのだ。2024年にはドゥカティで現王者のフランチェスコ・バニャイヤ、プラマックのホルヘ・マルティンといったライダーの契約が満期となるため今後数ヵ月で交渉が始まるはずだが、チアバッティ抜きでの交渉を想像するのは難しいものだ。 チアバッティの人柄やその能力については、かつてドゥカティに在籍したホルヘ・ロレンソも太鼓判を押している。 「パオロは一緒に仕事をしていて、いつでも非常にやりやすかった。とても柔軟で礼儀正しく、共感力があって愛情深い人だったね」 2017年にドゥカティに加入し、チアバッティとも緊密な関係を築いていたロレンソはそう語る。 「オフロードのプロジェクトを始めるということで、ドゥカティもこのブランドとそれを率いる事のできる水準の人物を必要としているんだと思う。パオロが離れることでMotoGP部門は多くの損失があるけど、モトクロス部門は重要なプレイヤーを手にしたということだ」 また当時のロレンソのマネージャーであり、現在はマルティンのマネージャーを務めているアルバート・ヴァレラも、チアバッティを高く評価している。 「パオロはスポンサーと良好な関係を常に維持していることを別にしても、最も人間的な役割を常々果たしてきた。彼はドゥカティとライダーの間で理解を進める架け橋として機能してきた。だからこそライダーは皆、彼のことが好きなんだ」 「(後任となる)マウロ・グラッシリも非常に優れた人物だ。ただ我々も、彼が人間的な側面をより発展させて行ける力があるのかを確認する時間を与える必要があるだろう。スポンサー的な面では、彼はパオロから多くのことを学んでいる」 チアバッティの離脱と並行してドゥカティが対処しなくてはならない将来的な問題は、マルク・マルケスの存在だ。忖度などは期待できないマルケスという存在は、ドゥカティにとって大きな課題になるだろう。そして、チアバッティはこうした問題に対してもその性格やマネジメント力から、ぴったりな人材だったはずだ。 しかしながらドゥカティは自らその状況を複雑化することを選んでおり、問題への対処はダッリーニャの手に委ねることを好んでいるようだ。Autosport/motorsport.comの調べでは、ダッリーニャがマルケスの陣営加入を支持している主な人物のひとりだったことが分かっているが、チアバッティやドメニカリなどは陣営のライダーの調和が崩れる可能性から消極的だったという。 チアバッティは昨年行なわれた取材で、2025年に向けてマルケスとマルティンは「ファクトリーチームの候補として考えられている」と認めていた。 ファクトリーチームの2席を巡る争いはかなり苛烈なものとなってくるだろう。そしてそこには2023年を怪我で台無しにしてしまい復活を目指すエネア・バスティアニーニの復活やVR46のマルコ・ベッツェッキも理論上この争いに加わる。さらにVR46チームがドゥカティ陣営にとどまるのかどうかという問題もある。 そもそもマルケスはドゥカティ陣営のライダーと何度か衝突を起こしてきた。そのためマルケスの加入がドゥカティによる裏切りだと考えられてもおかしくはない。 そしてインディペンデントチームのグレシーニがライダーを決める権利を持っているとはいえ、ドゥカティの承認無しにマルケス加入を決めたとは信じられてはいないのだ。 混乱が間違いなく発生するだろう状況に直面するドゥカティにとって、チアバッティはその対処において最も優れた人物なはずだった。しかし、彼はすでにMotoGPチームを離れてしまっており、彼の関わる問題ではなくなってしまった。 チアバッティがMotoGP部門を離れた今、実権はダッリーニャひとりが握ることになる。チームの内情に詳しい関係者は、今回のチアバッティ離脱を伴う再編について、motorsport.comに次のように説明した。 「この再編だが、ふたつの理由から説明できる」 「まず第一に、ドゥカティはオフロード分野を重視したいと思っていたが、ジジは(オフロード分野に)興味がなかった。パオロはこの新しい分野を導くベストな人物だったんだ」 「そして加えて、彼のMotoGP部門からの離脱は、ダッリーニャをさらに強化することになるだろう。なぜなら、彼は自らの決断に対して、ある種の抵抗力を使える人物を取り除くことができたからだ」
Oriol Puigdemont