愛されるコーギー犬が起こした〝事件〟 作者が絵を依頼した理由は…「母国を追われた彼女だからこそ」
みんなを笑顔にするコーギー犬「シロ」が起こした、ある事件――。昨年12月に出版された絵本は、ウクライナから日本に避難してきた女性がイラストを描きました。ウクライナ語にも翻訳された絵本には、「子どもたちに笑顔でいてほしい」との願いが込められています。制作の経緯を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・篠健一郎) 【画像】りんご発見、ぬいぐるみ抱きスヤスヤ…コーギー犬が起こした〝事件〟
きっかけはテレビ番組
名古屋市の元小学校教諭、今飯田(いまいいだ)洋子さん(64)は2022年夏、あるテレビ番組で紹介された女性に目が留まりました。 ウクライナから名古屋に一人で避難。母国ではイラストレーターとして働いていましたが、来日後は仕事がなかなか見つからず、新型コロナのワクチン接種会場でアルバイトしている――そんな内容でした。 今飯田さんは文章を書くのが好きで、以前から絵本を作りたいと思っていました。そんなときにこのニュースを見て、この女性に絵をお願いできないかと考えました。 「母国を追われ、食べ慣れたものはなく、見慣れた景色もない。そんな彼女だからこそ、子どもたちに寄り添い、笑顔にすることができる作品がきっと作れるのではないかと思いました」
日本語学校探して面会
ただ、その女性がどこにいるかわかりません。女性が通っていた日本語学校を見つけて事情を説明したところ、女性に会わせてもらえることになりました。 女性の名前は、コロトコバ・エリザベータさん(24)。首都キーウ近郊のイルピンから名古屋にいる友人を頼って22年3月に来日しました。 「絵本、一緒に作ってくれる?」と今飯田さんが聞くと、「大丈夫」とエリザベータさん。初めての絵本制作に不安もありましたが「ぜひチャレンジしてみたい」と引き受けました。
愛犬の「りんご事件」を絵本に
作品にしたかったのは、今飯田さんが飼っていたコーギー犬「シロ」の物語でした。誰にでも甘え、みんなを笑顔にする。そんなシロが留守番中に大好きなりんごを見つけ、それを追いかけ回して部屋中をめちゃくちゃにしてしまったという実際の「事件」が元になっています。 エリザベータさんにシロの写真を渡し、日本語学校とアルバイトの合間の時間や週末に会うなどして、絵のイメージを伝えました。 エリザベータさんは日本語を勉強中だったため、細かなニュアンスを伝えるのが難しく、漫画の登場人物の表情も見せて参考にしてもらうことも。エリザベータさんも子どもに受け入れられるような絵にしたいと、たくさんの絵本を読みました。 今飯田さんは、ウクライナの子どもたちにも読んでほしいと、エリザベータさんにウクライナ語への翻訳も依頼。約10カ月かけ、昨年12月に「シロちゃんとりんご」(空とぶロバ出版)を自費出版しました。