もし自然災害で住宅ローンの返済が困難になったら?「自然災害の被災者の債務整理のガイドライン」と事前にとりたい対策
制度利用の手順
手続きを進めるにあたっては、すべてのローンの借入先の同意が必要となります。また、債務整理が成立する前に資産の処分を行ったり、災害復興住宅融資やリフォームローン含め、新たなローンを組んだりすると、債務整理修了となり、住宅ローン等の免除・減免は受けられなくなりますので、注意してください。これまでに返済を延滞したりして、期限の利益喪失事由にあてはまっているときも利用することはできません。 特定調停は簡易裁判所に申し立てます。さまざまな手続きにおいて、弁護士等の登録支援専門家による支援を受けることができますが、申立時は債務者本人の出頭が必要で、申立費用はご本人の負担となります。
最近の利用状況
2024年6月末時点で、ガイドラインの利用状況は以下のようになっています。 登録支援専門家に手続支援を委嘱した件数 1354件 債務整理成立件数 596件 (出所:一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関) 一方、日本弁護士連合会災害復興支援委員会『「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に関するアンケート調査報告書』によれば、債務整理成立事案のうち、債務免除額が500万円以上となった事案は76.4%です。(回答総数123件) ガイドライン利用により債務者には大きなメリットが期待される反面、債務整理が成立した割合は約44%です。債務整理として成立するには、一定の要件にくわえ、債務者の財産や収入、信用、債務総額、返済期間、利率といった支払条件、家計の状況等を総合的に考慮して判断され、支払不能と認められるには一定の基準もあります。ガイドライン利用のハードルは高いと言えそうです。
住宅ローン契約前の対策が大切
これまでに災害救助法が適用された自然災害は、例えば以下のようなものがあります。 ・阪神・淡路大震災(1995年) ・東日本大震災(2011年) ・御嶽山噴火(2014年) ・新潟県糸魚川市大規模火災(2016年) ・熊本県熊本地方地震(2016年) ・西日本豪雨(2018年) ・東北・北陸4県令和3年1月7日からの大雪(2021年) ・長野県茅野市において発生した土石流(2021年) ・能登半島地震(2024年) 住宅ローンの返済は長期にわたるため、自然災害だけではなく、失業や家族の病気など、不測の事態も起こりえます。万一のとき、家計が重篤な状況に陥らないために、住宅ローンを組む前には以下のようなポイントを踏まえておきましょう。 ・ハザードマップを確認し、明らかに災害リスクの大きい土地での住宅取得は避ける ・ゆとりを持って返せる住宅ローンを組む ・生活防衛資金(生活費の6カ月分程度)を準備しておく ・収入減に備えて保険に加入する ・繰上返済をしすぎない ・火災・地震保険(共済)に加入する。 そのうえで、万が一のときは早い段階で、金融機関等にためらわず相談にいきましょう。
内田英子(CFP/FP1級/消費生活アドバイザー/住宅ローンアドバイザー)