映画監督・兼重淳ならではの脚本で描く、朗読劇『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』
――さらに歌もある、と。 山崎 ……まあ、まずは事務所との話し合いがありましたね。 兼重 (笑)。 山崎 事務所は俺の実力を知ってるから。いいのだろうかと。 兼重 山崎さん、俊美さんと初めてお会いして歌を歌った時(本朗読劇の歌唱指導は渡辺俊美本人が担当)、俊美さんが「すごくいいですよ、もう一回歌ってみますか?」とおっしゃったのに対して真顔で「何度でもやります!」と答えていたのが可愛らしかった(笑)。 山崎 俊美さんのギターで俊美さんの歌を歌えるってそんな機会ないですから。 兼重 至近距離で「いいよ!」と言ってもらっていたじゃないですか。 ――歌は全体で何曲あるのでしょうか。 兼重 2曲です。山崎さんと田村くんで1曲、高校生役の3人で1曲。それとは別に、TOKYO No.1 SOUL SETのあの名曲も流れます! SOUL SETのファンの方も喜んでもらえるのではないかなと思っています。 山崎 それもなかなかのプレッシャーなんですよ。一度正解が出ているあとに、僕が歌うという(苦笑)。 兼重 すみません(笑)。登生くんが4歳の時に、俊美さんが登生くんのために作った曲があって。それを山崎さんに歌っていただきます。 山崎 親子の関係性やお互いの思いをきちんと皆さんにお伝えできたあとに歌があれば、歌だからこそ伝えられるものがあるとは思うので。上手い下手はちょっと置いておいて(笑)、息子を思う父の気持ちが歌でも伝わるといいな、と思います。 兼重 ……これ、朗読劇とは思えないですよね。でも朗読劇なんですよ(笑)。俊美さんって、登生くんに父親として「好きなことをやって生きてくれていいんだよ」と伝えているところがある。その愛を僕らにも向け「好きにやっていいよ」と言ってくださっている感じです。俊美さんの大きな愛に包まれて僕らがいる……。 ――そして、とても若い座組ですね。 兼重 山崎さんと映像出演の堀田茜さん以外、全員10代。 山崎 ちゃんと覚悟しています。僕以外の3人でLINEグループを作るんだろうな、とか……。 兼重 (大笑)。 山崎 それをどこかで知る瞬間が来ると思うのですが、不意に知ってもショックを受けないような心構えはすでに作っています(笑)。でも田村海琉さんも山﨑玲奈さんも若いですがキャリアのあるすごい人たち。また髙橋佑大朗くんは今作で俳優デビューですが、初めての人しか出せない魅力は絶対ある。僕が一番年上だからと構えることなく、フラットな立ち位置で一緒に作っていけたらと思います。 兼重 すでに最高のメンバーだと思っています。海琉くんは映画版にも出てくれたけれど、小学生役で、映画でも小学生時代の出番は少なかったので、1日半くらいしか撮影はなかった。でも色々話もしたし、彼ももっとやりたがってくれていた。心に残っていたのでずっとその後も彼の活躍を見守っていて、今回の舞台版の話が来た時に「海琉くんに聞いてみてほしい」と僕からお願いしました。彼に関しては、僕はどこか、忘れ物を取りに来た感覚があります。 山崎 素敵ですね。 兼重 山﨑玲奈ちゃんと髙橋佑大朗くんに関しては、映画版で森七菜ちゃんと若林時英くんの演じた役だと思われがちなのですが、実は違っていて、今回ならではのキャラクターです。玲奈ちゃんは大らかで天真爛漫でありながら芯が強いというところが役にピッタリだと思います。佑大朗くんは実は、彼が「TOHO NEW FACE」オーディションでミュージカル賞を受賞した直後、ワークショップで教えに行っているんです。その時にちょっと一緒にやってみたいなと思った。彼のために書いた役を演じてもらいます。堀田さんも映画には出てこないキャラクター。そういう意味でも、この舞台のために集まってくださったキャストになっています。映画と同じ題材ですが、温め直しではなく、素材集めから料理方法まで全部変えて作り直しています。……これ、お弁当とかけてますよ(笑)? ――わかります(笑)。その中でも変わらない作品の芯の部分は。 兼重 やっぱり愛情ですね。親子の愛情は変わりません。 ――ありがとうございました。最後にこちらもお弁当にかけて……得意料理は何ですか? 兼重 何だろうな……山崎さんはなんですか? 山崎 卵焼きかな……。俊美さんのお弁当にも卵焼きは必ず入っているのですが、この間の撮影で実際に卵焼きを作るシーンを撮ったんです。僕は高校時代にお寿司屋さんでバイトをしていて、厚焼き卵を作っていたんです。その時にどうしたら厚く焼けるかを研究していたので、けっこう上手だと思います。なので得意料理は厚焼き卵で! 兼重 しかも山崎さん、本来は左利きなのに、俊美さんが右利きだからって右で上手に作ってくださったんですよね。それだけで僕はもう胸がいっぱいになりました。……僕も得意料理は卵焼きにしておきます。 山崎 ずるい、なんで同じものにするんですか(笑)! 兼重 いいじゃないですか(笑)。 取材・文:平野祥恵 <公演情報> 朗読劇『461個の弁当は、親父と息子の男の約束』 公演期間:2024年3月9日(土)~17(日) 会場:博品館劇場