ほんとの夜空(8月5日)
今の時期、三つの恒星が光を放つ。こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブで、「夏の大三角」と呼ばれる。ベガは「織り姫」、アルタイルは「ひこ星」の名で通る▼古来、人は星空に魅せられてきた。フランス南西部・ラスコー洞窟の約2万年前の壁画は、夏の大三角や「すばる」を表しているとの説がある。奈良県明日香村のキトラ古墳の石室内には、鮮やかな天体図が浮かび上がる。いにしえの人々はどんな願いを込め、絵筆を執ったのだろう▼環境省は毎年夏と冬に星空観察をしてはと、国民に呼びかけている。見え方を調べ、夜間の明るさが景観などに影響を及ぼす「光害」や大気汚染に関心を持ってもらう。各地から寄せられた結果はインターネットで公開している。「天の川が見えやすいきれいな夜空」として田村市や広野町が紹介されている▼〈真砂なす数なき星の其の中に吾に向ひて光る星あり〉。正岡子規は詠んだ。砂をちりばめたような無数の星から向かってくるひと筋の光。病に伏した身には希望だったのか。早世の歌人をまね、天を見上げてみる。「ほんとの夜空」に瞬く明かりは悩みや不安から、わが身を優しく包んでくれる。<2024・8・5>