飯田大火でも取り壊し免れた「安東邸はなれ」、明治大と共同で再生プロジェクト
長野県飯田市仲ノ町に残る築90年の空き家「安東邸はなれ」を地域の交流の場にするための耐震補強工事の費用を集めようと、インターネットのクラウドファンディング(CF)が行われている。明治大出身のデザイナー中川めぐみさん(26)(東京都渋谷区)と、同大の「建築・アーバンデザイン研究室」の学生らが共同で取り組む「歴史的建造物再生プロジェクト」の一環だ。(柳沢譲)
空き家は、木造2階建て約120平方メートル。同市出身で、台湾総督などを歴任した旧日本陸軍の軍人・安東貞美(さだよし)(1853~1932年)の生家屋敷の敷地内に1934年に建てられた。戦後間もない47年に起きた飯田大火による焼失を免れ、写真館や下宿として使われたが、70年頃からは空き家となっていた。
はなれがある「橋北地区」一帯には古い街並みが残り、はなれが面する通りには、明治期の日本画家・菱田春草(1874~1911年)の生誕地もあるため「春草通り」と呼ばれるが、空き家も多い。
同大は市の空き家対策事業を受託した2021年以降、地元住民らとともに春草通り沿いの空き家を中心に街おこしに協力している。
はなれは昨年5月、内部を片付け、今年6月には一部を吹き抜けに改装するなどした。10、11月の週末を中心とした計5日間では、はなれに残されていたネガをプリントして往時の街並みの写真などを展示したり、南信州産の鹿革加工品、リンゴジュース、弁当、パンなどの販売を行ったりして県内外から訪れた計約240人にはなれの存在をアピールした。
はなれ2階の柱には、飯田大火で延焼を防ぐため、建物を壊そうと付けたとされる傷が残っている。11月中旬から同月末にかけ、この傷を残しながら、耐震強度を高める工事が行われた。
今年5月以降、プロジェクトの統括としてはなれの再生に取り組む中川さんは「歴史的な建物をその物語とともに残して、イベント開催などで、地域に開かれた空間にしていきたい」としている。