岸田首相、意欲から一転、突然の表明 「攻めの辞職」未練感じず【緊急連載 岸田首相退陣へ】
東京・永田町の首相官邸にある記者会見室に立つ岸田文雄首相(広島1区)は、どこかすっきりとした表情を浮かべていた。自身の退任を表明した14日午前の会見。「身を引くことで、けじめをつけたい」と淡々と述べた。国のトップの座を明け渡す未練は、さほど感じさせなかった。 【写真で振り返る岸田政権】2021年10月の政権発足~自民総裁選不出馬表明 わずか8日前。地元の「原爆の日」の会見は、全く異なる様相だった。9月の自民党総裁選への対応を問われると明言は避けた。ただ、ライフワークとする「核兵器のない世界」への道筋は身ぶりも交えて熱弁。同月下旬に米国である国連総会へ出席する意欲さえにじませていた。 「意欲満々だな」。近くで見届けたある首相周辺は総裁再選への挑戦は確実だと受け止めた。それだけに今回の「サプライズ表明」(党幹部)は、官邸や地元関係者に驚きを広げた。 1月の岸田派(宏池会)解散や2022年8月の内閣改造…。「岸田流」ともされる突然の表明劇が、自身の去就を巡っても繰り返された。なぜこのタイミングなのか―。会見では党派閥の裏金事件を挙げた。党総裁の責任を取るべく辞任する選択肢は「当初から心に期してきた」とした。「昨日、夏の外交日程をひと区切り付けた」とも述べた。 しかし、岸田派のある中堅は「総理の言動からは意気込みしか感じなかった。まだ政権を担いたかったはずだ」とみる。6月の首相会見では「気力は十分みなぎっている」とも発言していた。 「仮に総裁選に突っ込んで負ければ傷を広げる。影響力を残せるうちに退陣する道を選んだ」と分析するのは広島県選出の自民党国会議員。この見方を補うかのように、ある首相周辺は14日、「攻めの辞職だ」と解説してみせた。 党内には公然と「首相交代」を唱える声が相次いでいた。総裁選日程が固まる20日を前に、首相は10、11日、中央アジア訪問を取りやめた影響で公邸で過ごした。熟慮を重ね、総裁選に立候補しないとの答えを導いた。 日々の激務にも健康を保ち、国会閉会後も精力的に地方視察を重ねる首相の姿に、地元には総裁再選への期待も根強かった。長年支える林正夫元広島県議会議長(83)は「トップの責任を第一に考えたんじゃろう。自分より全体のことを考えたのは岸田さんらしい」と推し量った。
中国新聞社