『呪術廻戦』「作画が変わった」と言われる理由 2期でアニメーターの個性が爆発
「渋谷事変」に突入し、激しいバトルシーンが大増量しているTVアニメ『呪術廻戦』の第2期。作画のクオリティもこれまでより一層高くなっているが、視聴者のあいだでは「第1期から作画の印象が変わった」という声もちらほら上がっている。なぜそうした反応が出ているかといえば、“アニメーターの個性”の出し方が大きな理由だろう。 【写真】“劇場版”とも言える作画となった宿儺のバトル 『呪術廻戦』は第1期から『劇場版 呪術廻戦 0』、第2期に至るまで、すべて人気アニメーション会社・MAPPAが制作を行ってきた。ただ、監督は第1期と劇場版が朴性厚、第2期からは御所園翔太にバトンタッチしており、全体的な作画の方針が異なっているように見える。 絵柄が統一された作画が印象的だった第1期に対して、第2期ではアニメーターたちの個性が爆発するような回が多く描かれてきた。もちろんそれによって作品の世界観が崩れているわけではなく、演出の意図がしっかり反映された上での遊び心だ。 たとえば第31話「宵祭り」では、究極メカ丸(与幸吉)と特級呪霊・真人のバトルシーンでガラッと画風が変化。ケレン味があるアクションが連発された上、ロボットアニメでお馴染みの「勇者パース」や「板野サーカス」といった伝統芸能的な作画テクニックも飛び出していた。 同話は熱血系ロボットアニメのパロディという色合いが濃かったものの、「渋谷事変」に入ってからはさらに直球のエピソードが登場。第40話「霹靂」の戦闘シーンは、大きな話題を呼んだ。 このエピソードでは、『モブサイコ100』の“作画回”を手掛けたことで有名な土上いつきが絵コンテ・演出を担当。原画にも温泉中也やグレンズそう(宮崎創)といった実力派アニメーターが参加し、圧巻のバトルアクションが繰り広げられた。 とくに伏黒恵と甚爾の戦闘シーンや、特級呪霊・漏瑚と両面宿儺の戦闘シーンでは、いわゆる「影なし作画」を大胆に導入。あえてキャラクターに影を付けない手法によって、ダイナミックな動きが表現されている。 土上が自身のX(旧Twitter)で明かしたところによると、演出にあたって極力影を減らし、原作の絵の印象に寄せることを各アニメーターに注文していたとのこと。また、こうした方針は『呪術廻戦 公式ファンブック』に端を発しているとも語っていた。 実は『呪術廻戦』の作者・芥見下々は、熱烈な“作画マニア”。このファンブックでは、マニアとしての素顔を隠すことなくさらけ出しており、個性的なアニメーターたちの仕事に影響を受けたことを告白している。いわば第40話は、そんな芥見の情熱に対するアニメーター側からのアンサーだったのではないだろうか。 『呪術廻戦 公式ファンブック』によると、芥見は小学生の頃にアニメーターの存在を意識し、その後『鉄腕バーディー DECODE』をリアルタイムで視聴し、衝撃を受けたという。 同作は2008年から2009年にかけて放送されたTVアニメで、キャラクターデザイン・総作画監督のりょーちもを筆頭として、山下清悟や沓名健一といった個性派アニメーターたちの活躍が見られたことで有名。そして「影なし作画」が大胆に使われていたことでも知られている。 そもそも最近のアニメは、全編通して絵柄を統一する意識が高まっているが、必ずしもそれは当たり前のことではない。ひと昔前までは芥見が愛する『NARUTO -ナルト-』のように、絵柄が大きく変わり、ド派手なアクションが満載になる「作画回」を用意する作品も珍しくなかった。『呪術廻戦』でアニメーターの個性が爆発している光景には、どこか懐かしさすら感じられる。 「渋谷事変」でいえば、第39話「揺蕩-弐-」も印象的だ。特級呪霊・陀艮と伏黒甚爾のバトルが原作よりも大幅に増量した形で描かれており、アクロバティックなアクションシーンもてんこ盛りだった。そして同話を観た芥見は、放送後コメントにて「バーディ世代の芥見にめちゃくちゃ刺さるカット」があったことを告白している。ファンブックでの発言を考えても、この「バーディ」が『鉄腕バーディー DECODE』のことを指しているのは間違いないだろう。 『呪術廻戦』は、原作の時点で有名アニメーターの作画を意識したようなアクションが描かれている。そんな同作のアニメ版で、アニメーターの生き生きとした仕事を楽しめるのは、幸福な映像化と言っていいのではないだろうか。
キットゥン希美