イチロー、深刻危機の正体!
では、なぜ内野安打が減ったのか。 米メディアでも当時検証が行なわれたが、一塁への到達スピードが、全盛時の3.7秒から3.9秒を超える程度まで落ちたとの分析もあった。これが本当なら、当然、これまでセーフになってきた際どい内野安打のいくつかが、減ってもおかしくはない。 が、イチローには素人目では到底分からないスイングの変化が常におきており、一塁への一歩目が切りにくい体重移動をするような打ち方に変わっているのだとしたら、内野安打の減少は一概にはスピードが遅くなったから、とはいえなくなる。 そもそも2005年は34本、2011年は40本しか内野安打を記録していないものの、それでも年間200安打に到達してきた。ということはやはり、単純に内野安打の数だけが不振の要因とは言い切れない。 では、どこに狂いが生じているのか? イチローは2011年のシーズン終了後、不振の理由が「技術的なこと」であることを認めた。その苦しい中で何かを得たかと聞かれれば、「もちろん」と答えている。しかし実際には、そこで掴んだものが結果に結びついたのは、昨年の最後の50試合程度だ。 イチロー自身、今回は原因を特定し、修正できるのか。 現実的には残された時間が少ない。グランダーソンが戻ってきて、外野は4人になった。グランダーソンの復帰当初はバーノン・ウェルズが指名打者に回ったが、欠場していた指名打者トラビス・ハフナーも戻り、外野と指名打者の計4枠に5人がいる。 イチローがこのまま数字を上げられなければ、地元メディアが指摘するように、出番が少なくなるかもしれない。おそらく、イチロー、ウェルズ、ハフナーを交互に休ませる形をとるため、3試合も4試合も連続で休むことはないはずだが、それでもスタメン出場は減るのかもしれない。 長期的には契約が来季まで残っているので、すぐにはドラスティックな動きはないはずだが、仮に今季も優勝を逃し、イチローの数字も3割に達しないようなら、ヤンキースが今オフ、世代交代を図る中で彼がその波にのまれる可能性は否定できないところ。その場合は、トレードされるのか、イチローからむしろ契約の破棄を申し出て、新たなチームを探すのか――。 過去、4月の助走を終えた31試合目から40試合目がイチローの絶好調期だった。2010年までの10年では、8度も4割を越えている。今年は、今がちょうどそのときに当たるが、打率は31試合目から38試合目の時点でわずか1割3分8厘だ。 イチローが今後、ヤンキースという妥協のないチームの中でどんな存在となっていくのか。コントロールできるのはおそらく、彼のみである。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)