【天皇賞春】「今までと同じではダメだ」 7歳馬ディープボンド〝魂の粘り〟の背景 名馬ナリタブライアンと同じ〝原点の調教〟で再上昇
[GⅠ天皇賞・春=2024年4月28日(日曜)4歳上、京都競馬場・芝外3200メートル] ディープボンドにとっての天皇賞・春は、勝手知ったるレースだったかもしれません。2度は阪神で、前回と今回は京都で。それでも、だからこそ、7歳を迎え4度目のチャレンジとなる今回は「思い切った変化を」と陣営が大いなる挑戦をしていました。 ディープボンドと歩んできた約5年間。彼を知り尽くしているからこそずっと最善をつくしてきた陣営は、ここにきて「今までと同じではダメだ」と思ったのだといいます。 「これまでもボンドに合わせた調整方法でレースに向かい、ボンド自身、毎回歯を食いしばって一生懸命走ってきてくれました。でも、彼ももう7歳。最近の競馬ぶりを見て、何かを変えなければならない時がきたと感じました」 レース前、そう明かしてくださっていたのは管理する大久保調教師。変えなければならない何かを、調教のメニューに見いだしました。これまでは入念なフラットワークの後に調教を行っていたのですが、今回は、ウッドコースを2周するという調教に変えていたんです。 「原点に立ち返ってみようと思って。昔は、コースを2周する調教が主流だったんですよ。僕が助手の時代なんかは今のポリトラックコースが深いウッドチップになっていて、そこも使っていました。僕の父(大久保正陽元調教師)は、馬場を2周する調教でナリタブライアンやナリタタイシンを育てた。それと同じことを、今のボンドでしてみようと思ったんです」 ナリタブライアンや、ナリタタイシンと同じメニューを現代でやってみる。7歳馬の調教メニューをここにきてガラッと変えるというのは、とても勇気がいることだったと思います。でも、一筋の光を探した陣営の願いが届いたのか、今のボンドにはこの調教メニューがハマったようで、普段の動きもしなやかになってきたのだと大久保調教師はおっしゃっていました。 「正直、驚いているくらいなんですが…最近のボンドじゃ、一番いいんじゃないかって思うんです」 2週続けて追い切りにまたがった幸騎手も、「ズブいというイメージがありましたが、ズブいというより本当に乗りやすい。反応もしっかりしてくれますし、何よりこの長距離を走るうえで〝折り合いを心配しなくていい〟と思えたことが心強いです」とすごくいい印象を持たれていました。 今までのボンドは確かにズブかったのはズブかったんだと思います。けれど馬場2周でじっくりと負荷をかけにかけてきた〝原点の調教〟がスパイスとなり、ボンドに刺激を与えてくれたのではないでしょうか。 レースで、ボンドはスタートからモタモタすることなく、スッと前につけられました。4コーナー手前から早めに前を捕まえに行き、テーオーロイヤルとブローザホーンに差されこそしたけれど、やはり歯を食いしばって3着に粘っていました。 大久保調教師からお話をお聞きしていたからか、私はその姿の後ろに映像でしか見たことのないナリタブライアンの姿が見えた気がしました。 天皇賞の週、大久保厩舎の一角にある小さな花壇に、小さな桜の苗木が花を咲かせていました。「一つだけお店に残っていたものなんです。周りの桜は散ってしまったけど、ここは今が満開ですよ」。そう言って笑っていた大久保調教師。 優勝こそできなかったけれど、それでも陣営とボンドの努力がキラリと輝いた瞬間を、私たちファンはしっかりと感じられた──。そんなレースだったと思います。
赤城 真理子