人気ブログ『Y氏は暇人』の山田全自動が古本屋を開店したワケ
フォロワーが激減
会心作を山田全自動のInstagramに公開したところ、フォロワーが激減。 「“よくわからないんで普通のあるあるを上げてください”っていうコメントが並んで。初めて体験した“炎上”でしたね」 山田さんはこの一件を経て、「共感されなくても、自分がおもしろいと感じる作品は発信しよう」とXアカウント・山田全自動みゅーじっく(@ytanet)を立ち上げました。 「僕は作家としての強いこだわりとか、こうなりたいとかあまりなくて。みんながいいね! と言ってくれることを続けてきただけで、作家としての自分はどこか“全自動”式に編集されてきた気もします。ただ、自分だけがおもしろいと感じるものを集めたい欲はあって」 半ば受け身とも思える姿勢で作家活動を続けてきた山田さんが、2020年代に入る頃、強烈な危機感から自分の意志で決断したことがあります。きっかけは、AIの台頭でした。 「僕の創作アイデアも表現もあっという間に学習されて、AIでもできる日が来る。そうなる前に、自分のクリエイティブにきちんと見切りをつけることも大事。創作一本で生きるのは怖い、次のおもしろいことを探そうと決めました」 ■本の背表紙がぎっしり並ぶ空間が、お腹痛くなるほど好き 「次のおもしろいことって?」と自問する山田さんの頭に浮かんだのは「本」。 「本も本屋も好きで、大きい書店もまちの独立系書店も毎日のぞきます。いつか古本屋をやりたいと思っていた昔の夢がふとよみがえりました」 中学生の時から、山田さんは近所の神社で開かれる骨董市に通って、昭和30~40年代の家電カタログや地図、漫画、レコードを集めていたそう。 「人間がものをコレクションする行為はずっとなくならないと思うんです。 僕は情報としての本ではなく、物質としての存在感や絵力が好き。古い本の背表紙がびっしり並ぶ空間に出合うと、ドキドキしてお腹が痛くなるほど興奮しちゃうんですよねえ」 本や紙もので埋め尽くされた狭い空間をつくってみたい。山田さんは突き動かされるように物件を探し、2023年冬、住吉エリアにカフェの居抜き物件を発見。 店名はジャンルと地名をシンプルに組み合わせた「ふるほん住吉」に決めました。ひらがなにしたのは、「かわいくて、誰でも入りやすい雰囲気にしたい」から。 「住吉は『Y氏は暇人』ブログのネタを探しによく歩きました。商店街をぶらぶら覗きながら、老舗の食堂や喫茶店に入るのが定番。自分はここにいるのがふさわしいなと心が落ち着きます。古い地図を調べたら、3軒隣に“すみよし”という名前の古本屋があって。やっぱり、まちの歴史を知ると発見が多いですね」 前はカフェだった物件に残された什器や照明は再利用。木のカウンターに刻まれた文字も、古本に挟まるレシートもそこにいた人の跡を辿れることが楽しいと言います。 古書店経営といっても経験ゼロからのスタート。およそ15000冊の古本、古地図やカタログ類、300本のカセットテープなどを古書組合や全国の古本・骨董市を巡って仕入れました。およそ4か月の準備期間を経て、2024年4月26日に開店! 入り口の「猫の棚」「アートの棚」から始まり、怖い話がびっしり並んだ文庫棚、水木しげるなど学習漫画が並ぶ棚など特に1970~80年代の漫画や雑誌、古書が充実しています。ふと足元を見れば、古いトランクに「地元博多」や「純文学」のコーナーも。 1980~90年代の歌謡曲や洋楽のカセットテープが並ぶ棚を曲がれば、どんつきに鄙びた温泉街を歩くような錯覚を覚えるムーディーな旅情と色気が漂う旅雑誌や観光マップの棚が現れます。