「新札」登場で現金派はどうなる? 券売機のコストがもたらす影響
現金取扱機器の更新遅れがキャッシュレス化を促進
こうした意味を持つ現金は、新紙幣の発行によりどう変わっていくのだろうか。 新紙幣発行による最大の影響は、現金取扱機器の更新の遅れにある。ATM、券売機、両替機、現金機、セルフレジなど、現金を扱う全ての機器は新紙幣に対応するための更新が必要だ。しかし、この更新は簡単ではない。この数年で現金機・セルフレジなどが広く普及し「今回の新紙幣発行は、これまでの紙幣変更と異なる社会環境で行われる」(インフキュリオンの森岡氏)からだ。 日本自動販売システム機械工業会によると、新紙幣発行までにATMの9割以上、駅の券売機や小売店のレジの8~9割で準備が整う見通しだという。一方で、財務省の発表によると、新紙幣対応の進捗(しんちょく)は飲食店の食券機では5割程度、自動販売機は2~3割にとどまる見込みだ。 大手企業や金融機関は、新紙幣発行に先立って対応を進めているが、中小事業者にとっては大きな負担だ。新紙幣に対応した券売機は、1台当たり約100万円のコストがかかるとも言われている。ネット上では、券売機の更新に対し国の各種補助金が活用できるような情報も流れているが、全国商工団体連合会によると、実際にはほとんど国の補助金は活用できず、負担は大きい。 このように新紙幣への対応が後手に回ることで、皮肉にもキャッシュレス決済への移行が加速する可能性がある。森岡氏は次のように分析する。「現金利用者が新紙幣を受け入れない機器に直面した時、現金の利便性は損なわれ、キャッシュレス決済への転換を促す方向に作用する可能性がある」 経済産業省の調査では、キャッシュレス決済利用者の4割が、キャッシュレス決済が使えない店舗の利用を避ける傾向にあることが分かっている。この傾向は、新紙幣に対応していない現金取扱機器にも当てはまる可能性が高い。
「新紙幣」発行による影響
特に影響が大きいのは、人を介さない決済の場面だ。券売機、自動販売機、駐車場の精算機などでは、新紙幣が使えないことによる不便さが顕著に現れる。これらの場面で、スマートフォン決済やクレジットカードのタッチ決済の利便性が際立つことになる。 ただし、この影響は一様ではない。医療機関や公共料金の支払いなど、現金決済が主流の分野では、新紙幣への対応が比較的早く進む可能性が高い。一方で、小規模な小売店や自動販売機など、更新コストが経営に大きな影響を与える分野では、対応が遅れる可能性がある。 このように新紙幣の発行は、現金派の消費者の行動にも影響を与える可能性がある。現金取扱機器の更新遅れによって一時的に現金の利便性が低下すれば、これまで現金を好んでいた消費者もキャッシュレス決済を選択する機会が増えるかもしれない。 (金融・Fintechジャーナリスト、斎藤健二)
ITmedia ビジネスオンライン