東京ゲームショウ2024、裏の最大の衝撃…韓国の地雷解体ゲーム『被亜』は、爆弾解除のプレイが北朝鮮との軍事境界線の現実に繋がってゆく【TGS2024】
ビデオゲームというジャンルだけが持っている可能性はなんでしょうか? 長年のあいだ考えているのですが、ひとつ言葉でまとめるとすればそれは、「やりごたえのあるゲームデザインの下で、ゲームをプレイする先で視野が広がる体験ができるもの」ではないでしょうか。 【画像全8枚】 そんなビデオゲームだけが持ちうる可能性を考えさせられたタイトルが、東京ゲームショウ2024(以下、TGS2024)にてひっそりと登場。それがSelected Indie 80に登場した『被亜』です。 こちらは韓国のゲーム人材院という、ゲーム開発の教育機関に所属する学生が開発した作品なのですが、自らのチームを「爆発物処理班」と名乗り、特異なゲームデザインを見せつけています。 イベントで各企業が華やかなブースを構える中、『被亜』は一見してあまり飾り気もなく展示されたゲームなのですが、試遊してみるとその印象は一転。筆者は予想外の衝撃を受け、しばらく『被亜』のことを考えながら取材からの帰路につく、というほどの一作でした。 銃撃を受けた小隊長と逃げようとしたなかで、あなたは地雷を踏む。 『被亜』は有刺鉄線が張り巡らされた森にて、韓国軍のパク小隊長が何者かから銃撃を受けるところから開幕します。この場所がどこなのかは、はっきりしていません。少なくとも何か緊張状態にあるのは確かです。同じ舞台のユン兵長は、傷ついたパク小隊長とともに逃げようとするのですが……。 プレイヤーはユン兵長として、傷を受けたパク小隊長を抱えながら危機を脱しようと森の奥へ逃げていくのですが、移動する最中に地雷を踏んでしまったことに気付きます。死を覚悟した瞬間でしたが、地雷は踏んでいる間は起爆しません。 主なゲームプレイは、地雷から足を踏み外さないように細心の注意を払いながら、慎重に爆弾を解除し、この場から逃げ切ることです。しかし、解除は簡単には行きません。『被亜』では徹底して地雷を踏んだ状態から、精密な動作をしなくてはならないという緊張感あるゲームプレイを構築しています。 何しろ、ブースにはペダル型のコントローラーが設置されており、本当に地雷を踏んでいるかのような体験をさせているわけです。しかもゲームではペダルに加えてキーボードのSキーも押しっぱなしにしていないと起爆して即死。 爆弾の解除はペダルとSキーを押しっぱなしにしながら、他のキーを押して道具を引っ張り出さなくてはならないという、プレイヤーの指がつりかねないような操作を要求します。しかし、これが地雷解除の緊張感に繋がっているのは間違いないです。 やることは多いです。まずは何者かに襲撃された傷を手当し、その後に地面の地雷を踏んだままスコップで掘り出してゆく。そうして地雷を露出したら、なんとかドライバーでネジを外して内部を解体していき……と複雑な動作を起爆しないようにやらなくてはならないのです。これが難しく、気を抜けば即座に爆発。かなり嫌な感覚があるわけですね。 『被亜』の厳しさは爆弾解除だけに集中していられない状況が次々と襲い掛かることです。暗闇の中なので、懐中電灯をつけながらなんとか解体しようと試みていると、光を見つけた野生動物に襲い掛かられたりする。 それを回避したとしても、今度は韓国軍を襲撃した敵兵がこちらを狙っています。適宜、懐中電灯を消して伏せたりしないと撃たれて死ぬ危険にさらされているのです。これらを、地雷から足を離せない状況下でこなさなければなりません。傍らには命を失いつつある小隊長、周囲は敵に囲まれた状態、まさしく絶体絶命が足と手から伝わる体験となっているのです。 同時に韓国と北朝鮮で戦争が続いている現実に、足を踏み入れる体験でもあった このように緊張感溢れるゲームデザインの『被亜』ですが、試遊したところ「韓国軍が主役である」ということが気になっていました。 なぜこの設定にしたかをブースの担当者に伺ってみると、本作は「韓国と北朝鮮の軍事境界線」に強いインスピレーションを受けたとのこと。南北の境目には地雷が埋め込まれているそうで、なんと開発者の親族が地雷で亡くなってしまったことも、本作を開発するきっかけになっていると言います。 つまり、『被亜』は形をかえた現代の戦争を描くゲームのひとつと見てもいいかもしれないのです。 朝鮮戦争が1957年に休戦して以来、日本で国際的なニュースをざっくりと見る限りは韓国と北朝鮮の接触というのは、意識しなくてはあまり見ません。しかし。当の韓国側からすれば今も北朝鮮との戦争が継続しています。 韓国に兵役があるということを知っている方は多いとは思うのですが、軍に入って以降の活動にどのようなものがあるかはわかっていません。そこで『被亜』は、いまも継続する朝鮮戦争がどういうことかに触れてしまうような、そういう衝撃が走る一作になっています。 『被亜』はゲームというかたちでデフォルメされているとはいえ、地雷解除という緊張感から韓国と北朝鮮の現実について体験させます。ちなみに、実際の地雷は踏んだ瞬間に起爆するため『被亜』のような解体は出来ないとのことらしいです……。 これまで、ゲームは映画や漫画といった他の鑑賞メディアと比較されてきました。ゲームはそれらの他メディアが可能としてきた表現や、テーマ設定なども求めて、進歩してきたでしょう。一方で伝統的なルールに則ったテーブルゲームから、スポーツのように勝敗を決める競技の内部でだけ完結する価値とも異なる道を見つけようともしてきたと思います。 『被亜』は特殊なコントローラーの使用や、実験的なゲームデザインに加えて、そもそものゲームプレイに置ける手ごたえの高さによって、単なるゲームを越えて韓国と北朝鮮の現実をある意味で体験させるバランスが高次元で絡み合っています。こうした体験作りの射程の広さに、現代のゲームが持ちうる可能性が凝縮されていると思います。 『被亜』はまだSteamでストアページも出来上がっていませんが、今年の12月に無料での公開を予定しているとのこと。チーム爆発物処理班はGoogle driveにて本作のビルドを公式に公開しています。キーボードとマウスでプレイ可能な日本語版「PIA_Japanese_DefaultBuildV4.zip」のダウンロードも可能ですが、こちらは開発途中らしく、途中で進行できなくなります。雰囲気を掴むまでに留まっていますが、見ておく価値はあるかと思います。 やはりペダルコントローラーも揃った、ベストなゲームプレイはTGS2024現地の展示が一番でしょう。本作は幕張メッセHall10にある、Selected Indie 80のA08で出展中。TGS2024に行くインディーゲームファンには絶対におすすめの一作なので現地に行く方はプレイしてください! 筆者が試遊したかぎり、TGS2024で一番緊張感がある体験であることには間違いないです。 (情報提供協力:Masa Kei)
Game*Spark 葛西 祝
【関連記事】
- 今年の東京ゲームショウは涼しくて“モルボル氏”もニッコリ? スクウェア・エニックス『FINAL FANTASY XIV』ブースレポート【TGS2024】
- ディルドいっぱい貰ったよ!捨てるも良し、鳩にぶつけるも良し『Pigeon Hater』Steamストアページ公開
- ピンを抜いて棒人間を助けるゲームがしてみたかった!『あのゲー1+2』【TGS2024 試遊レポ】
- 判定ラインの調整もできる!絵本のような優しい世界とハイレベルな楽曲が融合したリズムゲーム『フェリシティーズ・ドア』を体験【TGS2024】
- TGSでは「日本一オールスター」が参戦! 自由なカスタムと爽快アクションでダンジョンを駆け抜ける『クラシックダンジョンX3』プレイレポート【TGS2024】