杉咲花×志尊淳「昔は“こうありたい”と思う気持ちが強かった」実力派俳優の二人がこの先“目指すもの”
本屋大賞に輝いたベストセラー小説『52ヘルツのクジラたち』が映画化。家族に人生を搾取されてきた主人公・三島貴瑚役を杉咲花さん、そして、そんな貴瑚の声なきSOSを聴き、救い出そうとする岡田安吾役を志尊淳さんが演じる。性的マイノリティをめぐる差別や偏見、ヤングケアラー、ネグレクトなどの問題を扱った本作。撮影現場では価値観の一つひとつをすり合わせながら、常に議論が生まれていたという。演じたお二人にとって、とくに印象的だったシーンとは――。 杉咲花×志尊淳 性的マイノリティやヤングケアラー、ネグレクトなどを扱った映画『52ヘルツのクジラたち』のシーンを見る
この作品に関わること自体に、緊張感があった
――杉咲花はすごい、とインタビュー前編でおっしゃっていましたが、どのあたりがすごかったのでしょう。 志尊 いやもう、全部ですよ。言葉なくただ歩いているだけでも、そこに立っているだけでも、素晴らしかった。対峙しているときは、僕はアンさんとしているので「すごい」なんて思わないんですけど……映像を通して観るとさらに「すごい!」って思う。安っぽく聞こえるかもしれないけど、それ以外の言葉が思い浮かばないんです。たぶん、演じている間は、苦労していないところがなかったと思うんだけど……。 杉咲 苦労……かどうかはわからないのですけれど、この作品に関わること自体に、やはり緊張感がありました。私の視点を通して物語を解釈するなかで、偏りをもってしまっていないだろうか、とか。制作陣の皆さんとひとつひとつの価値観をすり合わせながら、常に議論の生まれる現場だったので。その日のシーンを無事に撮り切るために、毎日一歩ずつ乗り越えていくような感覚でした。 ――議論が生まれるほど、スタッフ全員がこの作品のテーマに真剣に向き合っていたんですね。 杉咲 とくに今作においては、「こうでなきゃだめ」といった考え方を持つことが何よりも危険だということを、全員が理解していた気がします。多種多様な視点に敬意を抱いて、物語を制作していくことに集中する日々でした。大分に着いた初日、志尊くんが「スタッフさんたちと一緒にごはんに行く時間をつくらない?」と提案してくれたんです。それが本当にありがたくて。おかげで、その後も大分編の撮影ではスタッフさんたちとご飯を食べながらコミュニケーションを深めていける機会が増えて、とても充実した日々でした。 志尊 東京での撮影中は、取り憑かれているような雰囲気がありましたからね。