愛知・新美南吉ゆかりのピアノ修復 110年の時を超えた音色
愛知・新美南吉ゆかりのピアノ修復 110年の時を超えた音色 THEPAGE愛知
愛知県安城市の安城高等女学校(現県立安城高校)にあった、約110年前に製造のロシア製グランドピアノがこのほど修復を終えた。同校には童話「ごんぎつね」が代表作の童話作家・新美南吉が教員として1938年に赴任。そのピアノについてとされる俳句を南吉が残していることから、「南吉ゆかりのピアノ」として市民から注目を集め、修復完了に喜びの声が上がっている。このほど、同市歴史博物館でお披露目コンサートが開かれ、約170人の市民らが、よみがえったピアノの音色に耳を傾けた。
9割の部品再利用でオリジナル損ねず
同館によると、ピアノは1905年頃製造で、ロシアのピアノメーカー・ベッカー社製。作曲家のチャイコフスキーたちから高い評価を得たという記録があるが、日本ではほとんど知られていないメーカーで、現在同社は存在しない。日本国内で演奏できる状態で現存する同社のピアノは、同館にあるピアノが唯一とされる。 安城高校の英語教諭だった故・大岡幸雄さんが譲り受け、同市内の実家の納屋で保管していたが、2年前に妻の雅子さん(77)が市に寄贈。1年8カ月かけて修復され、今年10月に同館のエントランスホールで展示が始まった。 修復は、古いピアノの修復実績がある小野ピアノ工房調律センター(栃木県真岡市)が行った。ピアノは約50年の保管中に雨でぬれたこともあったという。その影響でピアノの音の心臓部で、弦の下にある響板の一部も痛んでいたが、同時期のピアノに使われていた響板を移すなどして補修。全体の8~9割の部品はそのまま再利用し、オリジナルを損ねないようにした。
亡くなった主人も喜んだことでしょう
コンサートでは、南吉が好きだったショパンの曲など9曲が披露された。演奏したピアニストの山本千秋さん(27)は「現代のピアノと比べて音は柔らかく、まろやかな感じ。鍵盤は反応が良く、繊細」と話した。 最前列で演奏を聴いた雅子さんは「修復は無理と思っていたが、きれいに直していただいた。亡くなった主人も、この場にいたらとても喜んだことでしょう」と、感激した様子だった。 同館によると、今後ピアノは同館で展示を続けるが、演奏会や一般来館者が触ることができるような機会は、今のところ予定にないという。しかし、天野信治学芸員(50)は「コンサートのリハーサルのときより、本番の方が、音が良かった」と感想。「使っていけば状態が良くなっていくことを確信した。演奏会に使うことなどを、考えたい」との意向を示した。 南吉は教員時代に「講堂に ピアノ鳴りやみ 秋の薔薇」という俳句を残した。ピアノをよく見ると、家具を思わせるデザインの脚や、譜面台に施された彫刻など、100年の時を感じさせる。復活したピアノは、南吉のいた時代を思い起こさせるとともに、現代でも人々を魅了し続けていく。 (斉藤理/MOTIVA)