取り調べで「ガキ」と罵倒は黙秘権・人格権の侵害 国に110万円の賠償命令
「取り調べ映像」の再生が判決に影響
江口氏が逮捕された事件では検察官による独自捜査が行われたため、取り調べの様子は録音・録画されていた(現行法では、裁判員裁判対象事件・検察官独自捜査事件にのみ、身体拘束下の被疑者取り調べの全過程の録画が義務付けられている)。 東京地裁の勧告により、国側は約2時間20分の取り調べ映像を証拠として提出。1月18日に行われた江口氏の本人尋問では、裁判所が「必要な範囲」として認めた、計約13分の映像が再生された。 なお、法廷で再生された映像は弁護団のYouTubeチャンネルで一般公開されている。 高野傑弁護士は、取り調べ映像の公開によって、判決では検察官の発言が個別に取り上げられて事実が認定されたと指摘。 「他の裁判では、検察官の発言や行為の存在自体が疑われることも多い。録音・録画の対象となる取り調べの範囲を拡大する必要がある」(高野弁護士) また、今回の訴訟でも、取り調べ動画を証拠として採用するまでには煩雑な手続きを要した。採用までのハードルを下げるために制度を改善する必要がある、と高野弁護士は訴える。
黙秘権とは「自己の意思に反する供述を強要されない権利」
趙誠峰弁護士は、判決が黙秘権の趣旨を「自己の意思に反する供述を強要されない権利」と判断したことについて言及。 「捜査官らは黙秘権を『事件に関連し、自己に不利益となる供述を強要されない権利』と解釈している。しかし、実際の取り調べでは、趣味の話題や事件に無関係な話題を持ち出して供述を引き出そうとする手法が日常的に行われている。 今回の判決は、黙秘権はそのような手法からも被疑者を保護する権利であることを、明確に示してくれた」(趙弁護士) また、判決では、弁護士としての能力・資質を疑う発言をするなどの江口氏の人格に対する攻撃を一方的かつ執拗(しつよう)に繰り返したことが「黙秘権の趣旨に反する行為」とも判断された。 趙弁護士は、被疑者のプライドを傷付けて感情を煽ることで供述を引き出そうとする行為は、今回の事件に限らず取り調べの現場では多数発生していると指摘。このような行為の違法性が認められたことについて「非常に評価できる」と語った。
弁護士JP編集部