東海大菅生、逆転サヨナラ打を生んだOBとの絆 選抜高校野球
劇的な逆転サヨナラ打だった。第93回選抜高校野球大会第8日(27日)の2回戦。京都国際からサヨナラ打を放った東海大菅生(東京)の多井耶雲(おおいやくも)選手(2年)はその日の夕方、尊敬する先輩にメッセージを送った。「信じて菅生に来て本当に良かったです」。相手は2017年夏の甲子園で、同校としては甲子園最高の4強入りしたチームのOB、奥村治さん(21)。「今回だけは褒めてやる」。わざとそっけなく返事したが、誇らしい気持ちでいっぱいだった。 【今大会のホームラン】 17年8月14日夏の甲子園2回戦、九回の打席に立った奥村さんが放った3ランホームランを当時中学生の多井選手はスタンドで目を輝かせて見ていた。所属する硬式野球チームの監督が奥村さんの父で、小さいときから憧れのお兄さんだった。奥村さんは高校卒業後、指導者の道を選び、チームのコーチに。2人は気が合い、兄弟のように仲が良かった。高校進学に当たって、地元・愛知の高校とも迷ったが、奥村さんの「菅生はいいよ」の言葉で東海大菅生に決めた。 中学時代は1年からクリーンアップを打つ多井選手だったが、東海大菅生では長打力のある選手たちを前に背番号はもらえず、昨秋はBチーム(2軍)に降格してしまった。悩んだが、頑固な多井選手は自分流のコンパクトな打撃を貫こうとし、コーチの意見にも簡単には従わなかった。しかし、奥村さんには素直に相談できた。東京まで来てくれた奥村さんの「フォロースルーを大きくしたら良い」というアドバイスを取り入れて練習を重ね、昨年末にAチームに戻れた。2月に発表されたセンバツメンバーからは外れたが、「チャンスはある」と信じ、最後までコツコツと練習を続けた。 背番号18に登録されていた選手が肩を痛め、開幕3日前に急きょメンバー入りし、「奥村さんのように、チャンスに強いプレーを見せたい」と語っていた。そしてこの日、九回2死満塁。土壇場の好機に突然代打で起用された。すぐに追い込まれたが「気持ちは負けていなかった」。4球目。「決めてやる」という気持ちで外角高めに浮いた球をきれいにはじき返した。 遠征先の栃木からネット中継で試合を見守った奥村さんは「やったぞ」と思わず叫んだ。勝利をものにした打席で見せたのはコンパクトな振りと大きなフォロースルーを組み合わせた見事なバッティングだった。 2回戦を勝利した東海大菅生は、センバツでは初の8強入りを果たした。29日の準々決勝で中京大中京(愛知)に勝てば奥村さんの代の記録に並ぶ甲子園4強。「僕たちを超えて、優勝してほしい」。更なる飛躍を願っている。【林田奈々】 ◇全31試合を動画中継 公式サイト「センバツLIVE!」では、大会期間中、全31試合を中継します(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2021)。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/senbatsu/)でも展開します。