学校に行けない先生 心えぐる保護者のLINE 膨大な事務、食事も入浴も「高速」に
うつ病など精神疾患を理由に、学校に行けない先生が相次いでいる。文部科学省の最新のデータによると、2022年度は全国の公立小中高校と特別支援学校で過去最多の6539人の教員が休職した。学校という職場で、何が先生を追い詰めているのか。現場の声から迫った。 【グラフ】精神疾患で休職した公立学校の教職員数の推移
■跳び箱で女子児童支えると「セクハラ」、それが職場の日常
「先生が私の腰の辺りを触ろうとした」「背中を触られた、と子どもが言っている」―。小学校の体育の跳び箱や鉄棒で、男性教諭が女子児童を支えると、学校へセクハラを疑う声が届く。県内の女性教諭(42)が目の当たりにしている職場の日常だ。 学校側が事実確認をして性的目的の接触ではなかったと判断しても、疑われた教諭のショックは消えない。 保護者同士のLINE(ライン)にも心をえぐられている。新学年になると「今度の担任は宿題が多いからハズレ」というメッセージが回り、採点ミスがあると流布される。女性教諭は「あら探しされているみたい」と嘆く。 公立学校共済組合(東京)は毎年、教職員を対象にしたストレスチェックを実施している。23年度に「高ストレス」と判定された教職員は11・7%(速報値)。調査を始めた16年度以降の最高を更新した。詳細が分かる22年度調査によると、「高ストレス」とされた人が選んだ要因(15項目から選択)は「対処困難な児童生徒への対応」が2位の24・8%、「保護者対応」は5位の16・0%と上位に並んだ。
■母親亡くなった2日後に出勤、「今のままでは人間らしく生きられない」
調査開始から7年連続トップは「事務的な業務量」だ。広島市内の女性(52)は昨春、小学校教諭を辞めた。保護者に気を使う忙しい職場だった。児童同士の小さなもめ事も報告書に残し、合間に給食をのみ込むように食べてプリントなどの採点をし、生活ノートに返事を書いた。 時間の捻出ばかりを考えて、次第に帰宅後の食事も入浴も「高速」になった。布団に入っても、興奮が収まらず眠れない。睡眠導入剤を飲むようになり、抑うつ症状で2回、計1年4カ月の休みを取った。母親が亡くなった時も2日後には出勤しなければならなかった。「今のままでは人間らしく生きられない」と退職を決めた。 文科省は8月、公立学校教員給与に残業代の代わりに上乗せ支給している「教職調整額」について、現在の月給4%相当から13%に増額する案をまとめた。 会社員に転職した女性は「喜ぶ教員は少ないのでは」と冷ややかに見る。教員時代を振り返ると、慌ただしい中インターネットで買い物をしても受け取る時間すらなかった。「あの時の私が欲しかったのはお金ではなくて時間だった」とかみ締める。
中国新聞社