森山直太朗『素晴らしい世界』〈番外篇〉「たった今の“答え”にたどり着いたその瞬間を僕は『素晴らしい世界』と名づけます」
この長いツアーの途中にできたという新曲「Nonstop Rollin’ DOSA」は、フォルクローレ風の楽曲で、旅路というものを想像させる。もし今回の編成ではなく、例えば打ち込みのリズムを使っても、あるいはエレキギターを導入しても、いかようにもその良さを引き出せる曲だ。そうした、芯を失わずにどんなふうにも変化していけるしなやかさ、それが今回の〈番外篇〉に通底しているものだと思う。そういう意味でも、この曲が「素晴らしい世界」という長いツアーのなかで生まれたというのは、まるでドキュメンタリーでも見ているような気になるほどのリアリティを感じさせる。 ピアノの旋律に合わせて直太朗が語りかける。 「『素晴らしい世界』というのはこういう景色のことを言うのだ、とか。『素晴らしい世界』ってこういう感覚なのかな、とか。ツアーを重ねるたびに一応の“答え”のようなものにたどり着くんですけど、たどり着いたその先にはまた“答え”があって、その“答え”にたどり着くと、またまたその向こうに“答え”があって。そうやってなんとか“答え”にたどり着くとそれは前と同じ“答え”だったりして……。僕たちはこういうふうに同じところをぐるぐる回っているようで、本当は――その上昇はわずかではあるけれど――天に昇っていく螺旋の道をゆっくりと進んでいるんでしょうね。だから“答え”がないんです。ただ、たった今の“答え”にたどり着いたその瞬間を僕は『素晴らしい世界』と名づけます。今日、このひとときが、この空間が、あなたにとってそんな世界であることを願いながら」 「素晴らしい世界」は圧巻だった。 これまでのツアーでは、どのスタイルを通じても基本的には直太朗のピアノ弾き語りで披露されてきた。しかし今回の〈番外篇〉では、ピアノ、チェロ、フィドル、バンジョー、マンドリンが加わるアレンジとなっていた。そして曲の後半、すべてのパートがひとり、またひとりと去って行くと、最後には直太朗だけがステージに残された。歌い終わってその場にペタンと座り込んでしまった直太朗を白い一筋の光が照らしだす。破壊と再生――。創作の大原則が座りこんだ直太朗の形をしてそこにあった。それはいくぶん頼りなげで、まるで生まれたばかりの赤ん坊みたいだった。すべてを失ってしまったようにも、何もかもを手に入れたようにも見えるその無垢な姿を言葉にするのなら、「素晴らしい世界」。森山直太朗が、彼の人生丸ごとでたどり着いた現在がそこにあった。 フラッグをステージの真ん中に立てると「さくら」をギターの弾き語りで歌った。『素晴らしい世界』は最初の地点に還っていきながら、また違う景色を見せていく。アンコールの最新シングル「ロマンティーク」、そして「どこもかしこも駐車場」と、すべての演奏を終えた直太朗を鳴り止まない拍手が何重にも渦を巻いて取り囲んでいた。森山直太朗のゆく螺旋の道が音になって見えた気がした。 Text:谷岡正浩 <公演情報> 森山直太朗 20thアニバーサリーツアー『素晴らしい世界』<番外篇> in 両国国技館 【セットリスト】 1. 生きてることが辛いなら 2. 青い瞳の恋人さん 3. 花 4. ラクダのラッパ 5. papa 6 アルテバラン 7. することないから 8. 愛し君へ 9. 生きとし生ける物へ 10. 君のスゴさを君は知らない 11. すぐそこにNEW DAYS 12. Nonstop Rollin’ DOSA 13. boku 14. あの海に架かる虹を君は見たか 15. バイバイ 16. 素晴らしい世界 17. さくら EN1. ロマンティーク EN2. どこもかしこも駐車場