【カオスな選挙ポスター】ほぼ全裸女性も登場し「珍獣博覧会」状態…公職選挙法の限界、どう規制する?
■ 公職選挙法でポスターを規制できず 公職選挙法は第16章「罰則」(第221条~第255条)で、立候補や選挙運動に関するさまざまな違反や量刑を定めています。ただし、今回のように売名やビジネスが目的と思われるポスターを規制する条項はありません。 候補者に関し虚偽の事実を公にしたり、事実をゆがめて公にしたりした者は、4年以下の懲役か禁錮、もしくは100万円以下の罰金に処せられますが(第235条第2項)、ポスターの内容そのものを規制する条項はないのです。ポスター掲示枠の売買を禁止する規定もありません。 したがって、今回の東京都知事選でも、選管にはポスターの内容に注文を付けたり、掲示の取り下げを陣営に要請したりすることはできませんでした。 実際、東京都選管の困惑はかなりのものだったようです。報道によると、選管の担当者は「ポスターの内容は公職選挙法上では規制されていない。(有権者らからの苦情には)そのほかの法律に基づいて警察が判断することを説明し、理解を求めている」と説明するほかはなかったようです。 政見放送も選挙ポスターと同様、自由な意見表明を保障されています。政見放送を規定した公選法第150条の2は「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」と明示しています。 しかし同時に同条は「日本放送協会及び基幹放送事業者は、その録音し若しくは録画した政見又は次に掲げるものが録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない。」と定めています。つまり、他人に対するあからさまな誹謗中傷や特定の商品に関するPRなどがない限り、録画した政見をそのまま放送しなければならないという規定が優先するわけです。
■ 政見放送では「服を脱ぎ出す女性」も 放送内容の編集を禁じたこの規定により、選管や放送事業者は政見放送の内容に介入することができません。今回の東京都知事選でも、政見の途中で服を脱ぎだす女性候補がいましたが、これについても政見の自由を優先した結果、そのまま放送されたとみられます。 ただ、過去の選挙では、政見放送の一部が削除される事件も起きました。1978年の参院選での出来事です。 同性愛者であることを公にしていた雑民党代表の東郷健氏(故人)は政見放送で、障がい者と協力して障がい者のコンサートを開いたエピソードを披露。その際、「めかんち、ちんばの切符なんか誰が買うかいな」と言われた話を紹介し、障がい者差別の解消を訴えました。 NHKはこの「めかんち」「ちんば」が放送禁止用語に当たるとして自治省(現・総務省)にオンエアの適否を相談。自治省側の了解を得たとして、東郷氏に無断でこの音声を削除して放送したのです。 ※「めかんち」「ちんば」は現代では使うべき用語ではありませんが、歴史的な事実を解説するうえで欠かせないとの判断から本記事では使用しました。 東郷氏は、このNHKの行為が政見放送の編集を禁じた公選法に違反するとして損害賠償請求を起こしました。一審・東京地裁は東郷氏の主張を認めましたが、二審・東京高裁では逆転敗訴。最高裁も「他人の名誉を傷つけ善良な風俗を害する」と判断し、東郷氏の敗訴が確定しました。 その後、2016年と2020年の東京都知事選における政見放送では、男性候補が収録中に性的表現を連発したことがあります。この内容は公選法第150条の2の「善良な風俗を害し」という部分に抵触することから、オンエア時に「公職選挙法の規定をふまえて音声を一部削除した」旨の断りが入りました。