ハリルは槙野になにを要求したのか その謎を解く
もうひとつのヒントは、面談内容に関して探りを入れるメディアに対して槙野が断片的に残した言葉だ。 ――言われて思い当たる節は。 「あります。(監督は)よく見ているな、という感じですね」 ――槙野選手が意識を変えれば。 「全然変えられます。そんなに難しいことではないと思いますけど」 ――直すまでに時間がかかりそうでしょうか。 「そういうことはないと思います」 ――守備に関することだけでしょうか。 「守備もありますし……ですね(笑)」 たとえば攻撃に関しては、ハリルホジッチ監督は隙があれば最終ラインから素早く前線の選手へ縦パスを入れるプレーを要求してきた。縦パスが難しい場合はサイドチェンジ。味方を1人ないし2人を飛ばし、相手のマークが手薄なエリアから縦方向へ向かって攻撃を再構築する。 Jリーグの試合を視察した指揮官は、球際における激しさや気迫が欠けている点と同時に、ボール支配に対しても「ただボールを回しているだけだ」と忌憚なく世界との差を指摘してきた。 前出のチュニジア代表戦では、最終ラインの選手同士で横パスを交換する光景は確かに激減した。90分間を通じて槙野が最も多くパスを供給した味方は、ボランチの長谷部誠(フランクフルト)だった。 といっても鋭い縦パスが占める割合は小さく、マイボール時に最終ライン近くに下がってきた長谷部へボールを預けて、セーフティーに徹していた感は否めない。もっと速く、もっと勇気をもて。最終ラインの選手が攻撃のスイッチを入れなければならない、と要求した可能性は大きいはずだ。 夕食後に開催した全体ミーティングではあえて槙野の名前を挙げて、個人面談で告げた内容を他の27人の選手たちにも開示している。槙野に対しては「悪く思わないでくれ」とあらかじめ断りを入れていたというから、決して個人を糾弾する意図はなかったのだろう。その全体ミーティングではバルセロナが3対0でバイエルン・ミュンヘンに快勝した、欧州チャンピオンズリーグ準決勝のファーストレグの映像を見せた上で、こんな檄を飛ばしている。 「気迫、集中力、縦の部分で差がある」 2ゴールをあげたリオネル・メッシをはじめとする、スーパースターたちとは実力面で大差がある。しかし、もっと激しく、厳しいプレスをかける気迫と集中力、そして縦への意識を強くもつことは考え方次第ですぐに修正できる。