ゾンビから逃れた先に食人族!“史上最●のゾンビ映画”『ヘル・オブ・ザ・リビングデッド』とは?
1980年代のビデオブーム真っ只なかに、当時乱造されたジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』(78)の便乗作品の一つとして日本に持ち込まれ、劇場未公開のまま発売された『ヘル・オブ・ザ・リビングデッド』(80)。“史上最●のゾンビ映画”とも呼ばれ、さまざまな意味で当時のホラーファンたちを驚愕させた本作が、昨年4Kリマスター版としてまさかの日本劇場初公開を迎え、このたび「超・特別版」としてBlu-ray発売された。いったいどこが“史上最●のゾンビ映画”なのか、実際の商品をチェックしながら紹介していこう。 【写真を見る】閲覧注意!ゾンビと食人族が迫る…血まみれの画面で展開する、グロ描写のオンパレード ■ジャングルの奥地で、狙撃隊を待ち受けていたのは…食人族とゾンビの大群! ニューギニアの奥地にある極秘実験施設“ホープセンター”で事故が発生し、そこから漏洩したガスによって人々が生ける屍と化してしまう。通信が途絶えたホープセンターに送り込まれたのは、ロンドン隊長を筆頭にした国際警察特別狙撃隊チームの4名。道中で彼らは、ゾンビ化した住民たちに襲われているテレビレポーターのリアと助手のマックスを救出。彼らと行動を共にしながら、ジャングルのさらに奥地に向かうのだが、そこには食人族とゾンビの大群が待ち受けていた…。 これまでも数々のカルト的ジャンル映画をパッケージ化してきたスティングレイが発売した今回の「超・特別版」Blu-rayに収録されているのは、2022年にイギリスの88フィルムズが作成した4Kマスターによる超高画質な本編。 先述の日本上陸時には『ヘル・オヴ・ザ・リヴィング・デッド』のタイトルでリリースされ、その後『死霊の魔窟』へと改題して再リリース。海外公開時にも『Hell of the Living Dead』から『Virus』、『Zombie Creeping Flesh』など、国によってタイトルが転々として定まらなかった同作が、ようやく決定版といえるタイトルと共に蘇ることとなった。 もっとも今回の4K化が、ほかの名作、傑作のように時代を経ての再評価という意味合いではなく、ケレン味タップリのチープさや、“やりすぎ”ともいえるグロテスク描写にまみれた本作を「高画質で観てみたい」という好奇心によるものだと、本編を観ればすぐにわかることだろう。高画質であればあるほど作品の粗がはっきりと見え、簡易なメイクが施されただけで普通の人間にしか見えないゾンビであったり、森のなかに所在なさげに佇む食人族たちの滑稽さがより一層浮き彫りに。 冒頭シーンでネズミに襲われる研究員の姿を皮切りに、“『ゾンビ』の二番煎じ”であることを隠さないどころかあからさまに見せつけるほど、同じようなストーリーテリング、キャラクター配置で進行していく。ジャングルのなかをうろうろする登場人物たちの姿を映していたかと思えば、ヒロインのヌードを入れ込んだり、なぜか動物たちの環境映像が差し込まれたり…。極め付けは『ゾンビ』、『エイリアンドローム』(80)から流用されたゴブリンの音楽。とはいえ、これがあるだけでそれっぽくは見えてくるから不思議である。 そんな妙ににくめない箇所を見つけて失笑まじりに油断していると、時折出てくるあまりにも生々しい傷口のアップや、グロテスクな食人シーンに打ちのめされることだろう。終盤の施設にたどり着いた登場人部たちを包む青々とした空気感と、それまでのジャングルとはがらりと異なる人工物の構造的な魅力は格別で、そこで待ち受ける不気味すぎる光景と、地獄のようなラスト。この映画が“麻薬的”と呼ばれる理由が、このBlu-rayを観ればよくわかるはずだ。 ■完全新録の日本語吹替版は、まるでテレビの“洋画劇場” さて、今回のBlu-ray「超・特別版」の最大の見どころともいえるのが、今回のパッケージ化にあたって制作された、完全新録の日本語吹替版。かつての洋画は、テレビ放送にあわせて吹替が作られるのが当たり前だったが、本作の場合はそれが叶わず。約40年の時を経て、今回初めて吹替版が作られることとなった。 しかもその声優陣が実に豪華。ロンドン中尉の声はリーアム・ニーソンの吹替えを近年担当している谷昌樹、サントロ軍曹役には数々の洋画吹替えやアニメ作品などで活躍するベテラン声優の大塚明夫、ヴィンセント役にはシャイア・ラブーフやオスカー・アイザックなどの吹替えで知られる小松史法、さらにオズボーン役には個性派俳優の吹替えを得意とする多田野陽平。そしてヒロインのリア役を白石涼子が務め、カメラマンのマックス役には宮崎遊。 この錚々たる顔ぶれが声を吹き込んだことで、阿鼻叫喚の世界にどっぷりとのめり込むことが可能に。ちなみに彼らの日本語吹替えを楽しみたいという方には、特典メニューの「洋画劇場風日本語吹替再生」から再生することをオススメしたい。詳細は興を削ぐので割愛するが、まるであの頃のテレビの洋画劇場を観ている気分が味わえる、マニア垂涎の機能だ。 さらに特典映像もかなり充実。リア役を演じたマージ・ニュートンや、脚本家のクラウディオ・フラガッソ、同じく脚本を務めたロッセラ・ドルーディが“回想”というかたちで本作との思い出を語るインタビューが合計100分以上も収録。さらに、当時イギリスで劇場公開後にVHSリリースされた際のエピソードが明かされる「VHSゾンビの襲来:ヘル・オブ・ザ・リビングデッドとビデオの時代」と題したインタビュー映像も、ジャンル映画ファン必見の内容となっている。これらを観れば、さらに本作が愛おしく思えてくることだろう。 また、封入特典である特製16Pブックレットには「『ヘル・オブ・ザ・リビングデッド』40年戦記」と題し、スティングレイ代表の岩本克也が本作との出会いから、40年の時を経て劇場公開に乗りだし、今回パッケージ化するに至るまでのエピソードがぎっしり。本作を隅々まで知るための副読本としてもってこいだ。 “史上最●のゾンビ映画”とも称されたことでタイトルだけは有名だったが、なかなか観る機会に恵まれなかったカルト作の全貌を、隅々まで味わい尽くせる「超・特別版」。是非とも入手して、怒涛のクライマックスと、その先に待ち受ける地獄を目撃してみてはいかがだろうか。『ヘル・オブ・ザ・リビングデッド 超・特別版』はオフィシャルサイトほかにて発売中。 文/久保田 和馬