石坂浩二が考える“ホンモノ”の役者「昔は殴り合いもした(笑)。談義をした仲間はみんなもう死んじゃいました」
自身も画家としての一面があるからこそ、映画『海の沈黙』で演じた画家役が生きる
──『海の沈黙』では画家・田村役でしたが、石坂さんご自身も油彩画で二科展に入選されるなど、絵画にも精通しています。田村を演じるにあたって、どういったことを意識したり、ご自身との違いを感じていきましたか? 「画家としての作品自体が私の作風と全く違いますが、今回は現場で考えることがありましたね。台本ではどんな絵を描くのか分かりませんから。現場で見て、“これか”と。“そうか、こういう絵を描く人か、なるほど”と」 ──今回は絵が大きな手掛かりに。 「これが田村って人だった、と。それに、最初は1枚の絵を見て、“これ一筋で来たのかな”と思ったんだけど、展覧会があるということで、頭から並べられた絵を見ていったら、昔はもうちょっと具象的なものを描いていて、そこからなるほど、こうなっていったのかと、改めて分かっていった。だから現場で実際の絵を見てものすごく変わりました」 ──本作では“贋作”がテーマのひとつとして語られていきます。派生しますが、しばしば役者業に関して、“ホンモノ”の役者、といった形容がされます。ホンモノの役者とは、なんだと思われます? 「昔はよくそういうことを言って、殴り合ったりもしましたけどね(笑)。いまの俳優さんは平和的みたいですけど。そういう談義をした仲間はみんなもう死んじゃいましたが、“おまえはほんとにしゃーない”とか、言い合ってましたね。ホンモノじゃないとか軽々と言うんですけど、でも正直、まだ私にも分かりません。ホンモノというものがあるのなら、偽物もあるわけですよね。でも役者ってニセですから。役者にホンモノも偽物もないと思います」
「みんな何かしらの演技、芝居にどっぷりと浸かっている」日々“芝居”に触れる機会が多い現代
──キャリア60年を超える石坂さんが考えても、役者にホンモノも偽物もない。 「そうですね。それと私はテレビから出てきた役者ですが、一般にまだテレビがあまりないころで、生放送で芝居をしてました。そうすると“芝居をする”“芝居を見る”ということが、自然ではない感じがあったと思います。 でもいまは、芝居を毎日見てますよね。お笑いでも芝居だし、みんな何かしらの演技、芝居にどっぷりと浸かっている。だから、ふっとカメラが回ったとして、自分自身が映像の中に入ること自体にも抵抗がないと思います」 ──自分が映像に入ることへの抵抗がない。 「歌をやってる方もそうだし。いまの方は芝居に触れる機会が多いから、そこに行く道は早い。逆にいうと、芝居に入ることにうずうずしているようなことなしに、ポンっと簡単に入れる部分はあるかなと思いますね」 ──自分自身で撮ってネットにあげて、世界に発信することもできますし。 「YouTuberになって有名になって語るとかね」 ──だからこそ、人の心を動かす、俳優さんたちのお芝居は“特別”なのかなと。これも難しい話で、なんだかドツボにハマってきましたが(苦笑)。 「それも作品によりますから。好きな役者さんが昔いて、その人の出るものを必ず見るようにしてたんですよ。でもあるとき、つまらない作品に出たら、その人の芝居もダメでした。“なんでこんなのに出ちゃったの”と思っちゃった」 ──(苦笑) 「その役者さんだからって、全て感動できるというわけでもないんですよ。素晴らしい役者さんで、本当に上手いなと思っていても、違う作品ではそうでもなかったりする。だから、自分もそうしたことに陥ることがあるかもしれないと気を引き締めていますけどね」 常に自分自身にも厳しい目を向け返せるからこそ、第一線に立ち続けられるのだろう。 いしざか・こうじ 1941年6月20日東京都生まれ。慶應大学在学中の1962年にテレビドラマ『七人の刑事』(TBS)でデビューし、卒業後に劇団四季に入団する。TBSテレビのプロデューサー、石井ふく子に見いだされる。NHK大河ドラマに『天と地と』『元禄太平記』『草燃える』3作品で主演。2025年『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で大河ドラマ12作目の出演が決定している。市川崑監督とのコンビでもよく知られており、特に『犬神家の一族』(1976)の金田一耕助役は高い人気を誇る。近年では倉本聰脚本による主演ドラマ『やすらぎの郷』(テレ朝系)が好評を博した。ほか近年の主な出演作に、ドラマ『相棒』(テレ朝系)シリーズ、『ブラックペアン シーズン2』(TBS系)、映画『変な家』(2024)、最新作に『海の沈黙』。 望月ふみ
望月ふみ
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