「1年に5軒ペース」で減る青森県の温泉施設 『青森の温泉めぐり』9年ぶり発行の意義
当時、青森は源泉数が全国4位。魅力的な温泉がたくさんありました。いまから35年前の昭和63年に初めて温泉の本を出すと、5000部が完売。さらに2度重版して、トータル1万5000部に達しました。 一方、屋台骨の月刊誌「グラフ青森」は部数が伸びず返品の山……。税理士さんから「このままではやっていけませんよ。もうバンザイしたら?」と破産を勧められるほど、赤字経営が続きました。 月末になると、印刷所から支払いの電話が事務所にかかってくるので、下池さんは車のなかで原稿を書いていたこともあったそうです。そこで下池さんは、月刊誌「グラフ青森」の誌面を一新させます。 雑誌名を「青森の暮らし」と改め、「ラーメン特集」など流行に流されず、地道に青森を取材。丁寧に記事を書くことを心がけました。すると県民だけでなく、全国の青森出身者が定期購読してくれて部数が伸び、やっと経営を立て直せました。いまでは社員5人を抱える出版社に成長しています。
さて、温泉をテーマにした書籍は、今回の『青森の温泉めぐり』で4冊目。9年ぶりの発行で、最多となる79ヵ所の温泉を紹介しています。下池さんの話によると、コロナ禍や燃料費高騰、後継者不足で、1年に5軒ペースで青森県の温泉施設が減っているそうです。 これをどうにか食い止めたい。そして青森の温泉をもっと知ってもらいたいと、本の企画を県内の温泉施設に打診したところ、あちこちから「ぜひ出して欲しい!」「何でも協力しますよ」と声が上がり、『青森の温泉めぐり』が出版されました。 192ページ・オールカラーなので、「青森の温泉ってこんなにさまざまな色の温泉があるんだ」と、見ても読んでも楽しめます。この本には、温泉をこよなく愛する下池康一さんの思いも書かれています。最後に、温泉に浸かった気分になる文章をご紹介します。 「温泉に入るとき、私はまず身体を洗ってから湯船の縁に腰を掛け、足を浸し、お湯の温度や感触を確かめます。それからおもむろに身体をゆっくり湯船に浸し、手のひらで身体をなでながらキュッキュかスベスベ、ツルツルかなどを楽しみます。そのときに心のなかで『ありがとうございます』と感謝し、『温泉っていいなぁ』となります」