キャズムの真実…EVより「ハイブリッド」が主流だという歪曲
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2024年に特に多く使われた単語がある。「キャズム」(Chasm)だ。キャズムとは、革新的な商品が初期に市場で成功を収め大衆的に拡散する過程で、一時的に需要が減ったり停滞する現象をいう。どの革新製品も一気に市場を掌握することはできない。新技術に拒否感のない初期受容者たちは関心を持つが、大半は新しいものを簡単には受け入れられない。慣れている従来の製品の方が楽だからだ。新しい技術に適応するには思ったより長い時間が必要だ。スマートフォンの大衆化の過程を振り返れば理解しやすいだろう。しかし、変化を避けることはできない。当為性を持った産業や製品は、結局大衆化され、世の中は変わる。キャズムは渡ることができる峡谷だ。道が途切れて渡れないわけではないということだ。 問題は自然な流れであるキャズムを悪用したり歪曲したりしようとする試みにある。「電気自動車革命(EV)は方向性を見失った」とか「EVよりハイブリッドが主流だ」あるいは「EVの成長停止」のような表現が代表的だ。彼らはファクトを無視しつつ意図的に特定産業の進歩、さらには人類が指向すべき目標を否定する。 ■遅い成長であっても止まるわけではない 「予想より遅い成長」と「進展が止まる」とは同義語ではない。予想よりは遅いが、純EVの販売は内燃機関やハイブリッド自動車の販売成長率を上回っている。EV革命はすでに始まっており、加速している。四半期別に見ると、2021年以来、毎年EVの販売台数は増えている。国際エネルギー機関(IEA)が発表した資料によると、2019年以来EV(プラグインハイブリッドを含む)の販売は毎年増加している。2024年には約1700万台のEVがグローバル市場で販売されるものと推算する。2023年には1400万台が売れたので、キャズム局面であっても成長している。このうち、純EVの割合は約70%程度で、数字では約1千万台だ。米国の場合も大きく変わらない。EVの販売は増え続けており、2024年第2四半期まで前年同期比7%程度成長した。 2024年は明らかにEVの成長が最も高い年ではないだろう。革新を受け入れた初期ユーザーは減り、大衆は依然として技術に懐疑的であり、価格に敏感で転換する準備ができていない。これは成長率の鈍化につながりうる。しかし、これが販売量の鈍化を意味するわけではない。成長率は低くなるだろうが、絶対的な販売量は増えるだろう。内燃機関自動車の販売は2018年以来減少し続けている。2024年も同じだ。一方、EVは成長する。2024年に私たちがあまりにも多く見たメディアのヘッドラインは「偽り」あるいは「歪曲」だ。「ニューヨークタイムズ」、「ゴールドマン・サックス」「インテリジェンス・レポート」など主流メディアや研究所も例外ではない。 「ニューヨークタイムズ」は「EVの販売(成長)が遅くなる中、テスラの販売はスランプに陥っている」というタイトルの2024年4月15日の記事で「今年第1四半期のEVの販売台数は2023年第1四半期に比べて2.3%成長したが、直前四半期、すなわち2023年第4四半期に比べれば下落した」と書いた。ファクトだが、記事が真実を書いたとは言えない。正確に書くためには、自動車販売台数が季節的要因によって異なることを指摘しなければならない。第4四半期は1年を締めくくる時だ。自動車メーカーや販売会社は在庫を減らすため、各種プロモーションを動員して押し出し式に販売する。一方、第1四半期には通常、自動車の販売台数が減少する。買い手はほとんどが買い終わっており、多くは新型車を待って購入を先送りするからだ。アイスクリームの販売が季節的であるように、自動車も同様である。直前の第4四半期に比べて第1四半期の販売台数が減少したことをEVの販売鈍化と説明するのは一種の歪曲だ。 「ゴールドマン・サックス」の報告書も同様だ。2024年5月21日付の報告書のタイトルは「EVの販売が鈍化する理由は?」だ。ならばその理由を説明しなければならないのに、ニューヨークタイムズのように2023年第4四半期と2024年第1四半期を比較しながらグラフまで親切に提示した。グラフの形は当然急落する形だ。何も考えずに報告書を見ると、本当にEVの販売台数が急減したと考える。しかし、分別のある人が見れば、2023年1月と比較した2024年1月の販売量は新記録を立てたことが分かる。 2024年第2四半期まで、米国全体のEV販売台数は7.3%増加した。これは自動車市場全体の販売台数増加を上回る数値だ。テスラを除いたEVの販売台数は、2024年上半期に前年比33%増加した。一体どれくらい成長したら成長したと言えるのだろうか。7%、33%の成長を「止まった」と表現する人々は、成長の意味を過大評価したり、意図的に何かを歪曲していると思わざるを得ない。 すべての革新には抵抗が伴う。内燃機関時代は100年以上続いた。一夜にしてEV時代に進むことはできない。特に化石燃料と内燃機関の供給網に関連した産業、関連学界、覇権企業の反発は避けられない。自分たちの既得権が崩れることを喜ぶはずがない。 ■中国のEV転換成功の意味 中国の場合、2024年1~5月に販売されたEVは自動車全体の32%に達する。ノルウェー、フィンランドなど北欧諸国に続き、世界6位の浸透率を記録した。何が中国のEVへの転換を成功に導いたのだろうか。中国が他国に比べて気候危機に対する共感能力が優れていたなどと言うのは雲をつかむような話だ。中国のEVへの転換は、極めて現実的な理由から始まり、そして成功した。 中国は2006年から2020年まで「国家中長期科学と技術発展規画綱要」により新興産業を計画した。7つの戦略新興産業だったが、そのうちの一つが「新エネルギー自動車」分野だった。2009年、中国はすでに最大の内燃機関自動車市場を持つ国に成長したが、自国の自動車産業は微弱だった。中国市場はフォルクスワーゲン、トヨタ、GMなど既存の自動車強国企業が主導した。中国政府としては、100年以上の歴史を持つ従来の内燃機関自動車大国に追いつくことは不可能だと判断したのだろう。彼らは形勢を逆転させることを考え、その唯一の方法が「EV」だった。中国政府は天文学的な補助金を注ぎ込み、EVの供給網を構築した。EVの製造はもちろん、バッテリー、主要鉱物に至るまで、EVへの転換に必要なすべてのものを垂直系列化した。何よりも中国の場合、内燃機関の既得権勢力が従来の自動車覇権国に比べて弱かった。その上、彼らの反発を一気に制御する強圧的な国家権力があった。そしてついに成功した。 2024年9月2日、ドイツの経済誌「ハンデルスブラット」は驚くべきニュースを伝えた。欧州最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲングループが、経営悪化を打開するため、ドイツ国内の工場閉鎖とリストラを推進することにしたというニュースだ。現実化すれば、なんと87年目にして初めてフォルクスワーゲンのドイツ国内工場が消えることになる。1994年から維持してきた雇用安定協約も終了し、2万人程度が解雇されるだろうという話まで流れている。ドイツの自動車覇権が崩れているという兆候だ。 理由は何だろうか。マスコミは原因については度外視し、特定の結果だけを強調する。「EVへの転換縮小」に重点を置いて報道する。しかし、原因はEVへの転換に速度を出せなかったからだ。フォルクスワーゲンなどドイツの自動車メーカーは、世界最大の自動車市場である中国に集中した。彼らは内燃機関自動車での優位が永遠だと思った。自動車パラダイムの転換を過小評価した。一方、中国は自分たちが追いつけなかった内燃機関車をあきらめ、EVへの転換に拍車をかけ、シェアを高めていった。2023年、ついに比亜迪(BYD)はフォルクスワーゲンを抜いてシェア1位になった。中国のEVメーカーのシェアが高くなるほど、フォルクスワーゲンなどの従来の自動車強者は力を失っていった。それが結局、フォルクスワーゲンという巨人が構造調整をせざるを得ない原因になったのだ。 未来の自動車は単なる移動手段を超越し、生活空間へと領域を広げていくだろう。自動運転と人工知能(AI)は必然だ。そのためには電気電子的な精密制御が欠かせない。言い換えれば、未来の自動車はEVにならざるを得ない。気候危機を防ぐためという名分よりも重要な現実的理由として、パラダイム転換は避けられない。 中国を除けば、韓国はEVの供給網を垂直系列化したほぼ唯一の国だ。優れたEVプラットフォームと生産力を保有しており、世界で最も質の高いバッテリー量産能力を備えている。関連素材産業も他国に劣らない。主要鉱物の支配力は足りないが、克服するための努力も続いている。さらに、北米および欧州は中国のEV・バッテリー産業を牽制するために壁を高めている。韓国企業にとって最も脅威的な中国を他国が牽制したため、一種の「状況的独占」が形成されたのだ。 韓国製内燃機関車の性能は優秀だが、ブランドの評判や性能でドイツや日本の完成車を上回ったとは言い難い。シェアも低い。EVでは違う。現代自動車・起亜のEVの品質は世界が認める。プラットフォームは他の企業より少なくとも2年は進んでいるという評価を受けている。2024年、米国市場で現代自動車・起亜は、フォルクスワーゲンやトヨタより多くのEVを販売している。キャズムだとか収益性だとかを問い詰める時ではない。たくさん売れば収益性を確保できる。内燃機関車では考えられなかった自動車覇権を韓国が持つ最高の機会が今、私たちに広がっている。この機会を逃せば次はない。雑音でその道を塞いでいる場合ではない。 ユン・ソクチョン|経済評論家 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )