客の8割がインバウンド客!「外国人がニッポンのレトロゲームに熱狂」なぜ?
懐かしのゲームは〝レトロゲーム〟、通称〝レゲー〟ともいわれる。 日本国民がコンピュータ・ゲームで遊ぶようになってから、20年以上経ったであろう令和のいま、高校生たちが’11年発売のニンテンドー3DSのゲームをレトロゲームとして楽しんでいる。そして、このレゲー文化は日本だけのものではない。秋葉原のレトロゲームショップに行けば一目瞭然だ。客の8割、いや9割が外国人と言っても過言ではないのである。 【画像】ぜ、全然違う! 中国に嫁いだこじるりの意外な私服&ナマ足 ヒップホップが似合いそうなオシャレな黒人ふたり組がレゲーショップで楽しげにトークしていたので耳を傾けてみると、どうやらファイナルファンタジーシリーズについて盛り上がっているようだった。それぞれイギリスとアメリカからこの店にやってきて、店内で意気投合したのだという。 彼等の多くが、海外で「NES」と呼ばれていた任天堂のファミリーコンピューター、あるいは「SNES」という名称だった「スーパーファミコン」、もしくは「ジェネシス」と呼ばれていた「メガドライブ」、SNKの「NEOGEO」といった、昭和~平成前期頃のレトロゲームを求めているという。 意外なところでは「たまごっち」や「ポケットピカチュウ」、「テトリス」などの’90年代に流行ったキーチェーンゲームも数千円、数万円という高値で取り引きされている。 新宿三丁目で18年間、「8bitcafe」というレトロゲームと’80&’90ポップカルチャーの再現をコンセプトにしたカフェ&バーを経営しているナヲ氏にインバウンド客のレゲー熱について聞いた。 「ウチもお客さんの半分くらいが外国から来た方ですね。アメリカ、フランス、ドイツの方が多いです。ヨーロッパの方が多いですがそれはたまたまで、アジア系の方も『キング・オブ・ファイターズ』シリーズとか『サムライスピリッツ』シリーズといったSNKの対戦ゲームがとても好きだと聞きます。ウチでも人気があるのは’80~’90年代のゲームですね」 ――30~40年以上前の頃のゲームを、今プレイしている? 「はい。ニンテンドースイッチでも、プレイステーション4・5でも、PCでもスマホでも、レトロゲームはダウンロード販売などで、簡単に購入できます。それにファミコンは互換機と呼ばれるものが、ドン・キホーテなどで安価で売られています。〝当時の物がいい!〟という人にも、接続をHDMI方式に変換して、今のテレビで使えるようになる変換器が売られていますし、各メーカーも様々な形でレトロゲームと関連作品の復刻・リメイク販売をしていて、今でも過去の名作の多くがプレイできるんですよ」 そんな状況の中で、彼等は、一体何を想い、日本のレトロゲームを求めているのだろう。たまたま同日に取材に来ていた、〝Nihon Hack〟という、YouTubeチャンネルでカメラマンを担当していた、日本のレトロゲームマニアだという36歳のクロアチア人男性・サシャ氏に聞くと、流暢な日本語で答えてくれた。 「子供の頃、ドイツにいたのですが、その時プレイした『スーパーマリオブラザーズ3』でレゲーにハマりました。ゲーム内のワールド4〝BIG ISLAND〟で、今まで自分より小さかった雑魚キャラが、自分の何倍も巨大になって迫ってきた時の衝撃は忘れられません。それ以来、『マリオブラザーズ』など、いろんなマリオものをプレイするようになって、どんどんハマっていきました。アメリカやヨーロッパのゲームもプレイしますが、ほぼ日本のゲームしかやってません。日本のゲームが本当に大好きなんです(笑)」 彼らはどうやって、この店にたどり着いたのか。ナヲ氏が言う。 「普通に、大阪、京都、博多、秋葉原と回ってきて、新宿に来たらここ、という感じみたいです。観光コースのルートに入っているんでしょうか(笑)。買い物は、やはり日本のレトロゲームが多いみたいです。今、円安ですから買いやすいみたいで、いっぱい買っていらっしゃる人もいます。 20~40代くらいの方が多いですね。今はニンテンドースイッチなどで簡単にレゲーをプレイできますから、そこが入り口になっているのではないでしょうか。当時のゲームのパッケージやポスターなどをアートとして捉えて、ポップカルチャー的な魅力を感じている人たちも多いですね。漫画やアニメも好きで『ジョジョの奇妙な冒険』は、サブカル漫画の代表的存在になっているのか、ジョジョネタはどのインバウンド客にも通じますよ(笑)。 この店は僕が〝中学・高校生時代に、友達とだべっていた部屋〟というのをコンセプトにして、当時買いたくても買えなかったものを大人になってから集めて、飾っています。ですが、ウチの何倍もレゲーやオールドゲーム機を集めた部屋の写真を見せてくれる外国人の方もいます。僕は自分の〝あの頃〟を再現したくて作った訳ですが、海を越え、時代や文化も超え、色々な人が同じことをやっていて共感できるのは、なんだか不思議な感じがします」 ――彼等に、特に人気のあるゲームは何ですか? 「やっぱり、任天堂さんのゲームは強いですね。スーファミ版『スーパーマリオカート』が遊べる業務用に使われていたゲーム機を置いていて、対戦プレイもできるんですが、マリカーの対戦は本気で国境を超えます(笑)。やはり任天堂の『バーチャルボーイ』や『スーパースコープ』といった、日本ではあまりウケなかったけど海外で人気のあったゲームを懐かしがる方もいます。お店にワンプレイ50円できる『ゼビウス』を置いているのですが、名作ゆえに世代を超えて人気です」 色々な国の人々が集まってくるというが、インバウンドゲーマーたちは何語でコミュニケーションを取っているのだろうか。 「僕自身、カタコトの英語しか話せませんがまったく問題ないですね。〝どこからきたの〟みたいな会話から始めて……気が合いそうな客がいたら、僕がつなげてあげたりしますね。ゲームで対戦すれば、言葉なんて関係なくなります。同じ趣味があるというのが尊いです」 ――そもそも、どうして海外のゲーマーが日本のレゲーに惹かれるのか? 「なんででしょうね?(笑)。’80~’90年代のデザインが光っているというのと、世界が今、閉塞感でいっぱいですから、元気だった時代、そこにある青春の想い出のようなものが、時間を超えて人の心を掴むんでしょうか」 手元のスマホであの頃のゲームを検索し、心の奥にある大事であたたかなものを探してみるのは如何だろうか。 取材・文:来栖美憂 くるす・みゆう フリーライター。人文、社会問題、サブカルチャーなどを主な守備範囲とし、雑誌・新聞・ネット等、メディアを問わず、記事の取材・執筆を中心に活躍。著書多数。 取材協力: 8bitcafe 地下鉄新宿3丁目駅C5出口を出て眼の前。営業時間19時~24時(火曜定休) 新宿区新宿3-8-9 新宿Qビル5F ●03-3358-0407
FRIDAYデジタル