なぜ「蛾」は嫌われる? 「偏見や先入観なくしたい」埼玉昆虫談話会・会員の願い
埼玉県・蕨市に生まれた飯森さんは子どものころ、自然が好きな父親に山や川へ連れて行ってもらったそうです。生き物が大好きで、特にクワガタを追いかける少年でした。 昆虫採集に出かけたある夜、街灯の下に止まっている虫を発見。その羽の色は翡翠のように、神秘的に輝いて見えました。 「何てきれいな羽をした虫なんだろう」 すぐに調べてみると、「オオミズアオ」という蛾でした。それまで「蛾なんて気持ち悪い、汚い」と思っていましたが、その蛾を見た瞬間、飯森さんは蛾の虜になってしまいます。 とは言え、「蛾が好き」とか「蛾の採集をしている」など、「人に話す趣味ではない」と若いころは思っていたそうです。就職・結婚し、子どもも生まれ、蛾のことを忘れていた時期もありました。 しかし、インターネットの普及で「同じように蛾が好きな人が世の中にはたくさんいる」と知った飯森さんは、「自分の居場所が見つかった」と喜びました。いまでは「埼玉昆虫談話会」と「日本蛾類学会」の会員です。蛾の魅力を伺うと、「一言では語り尽くせない」と言います。
「とにかく蛾は種類が多いんです。米粒のように小さい蛾もいれば、人の顔ほど大きな蛾もいる。色も形もさまざま。夜中に飛ぶ蛾もいれば、昼間に飛ぶ蛾もいる。高い山だけに棲む蛾もいるし、冬にだけ飛ぶ蛾もいる。つまり1年中、蛾は活動しているんですよ。なぜ嫌われるかと言うと、6000種類以上いるなかで、ほんの数種類、毒の毛で身を守る蛾がいて、『蛾は毒がある』と思われてしまったことが大きいですね。私たちが目にするほとんどの蛾に毒はありません。まだまだ蛾の研究は進んでいないので、普段よく目にする蛾がどのように生きているのか、そんな蛾の生態を解明していくのが楽しいんですよ」 色鮮やかな羽を見て「きれい!」と思っても、それが「蛾」だとわかった瞬間「気持ち悪い」「汚い」「怖い」と目をそむける人が多いそうです。飯森さんは、ここに「偏見」や「先入観」があると言います。 「偏見や先入観はどの世界にもあると思います。私は蛾に対する偏見を多く目にしてきました。そのせいか、何に対しても一度フラットな視点を持ち、相手の立場になって考え、それを踏まえて自分はどう思っているのか……それを大事にするようになりましたね」 11歳のとき蛾に魅せられ、いまもなお追い続ける飯森さんにとって、蛾とは一生終わることのない「宝探し」なのかも知れません。