【和田秀樹氏インタビュー】幸せを感じながら老後を生きる「幸齢者」になる道 条件は「無理に病気を見つけない」、「“できないこと”より“できること”に意識を向ける」
健康、お金、家族や親族との関係……歳を重ねると数々の「人生の壁」が立ちはだかる。この壁をどうやって乗り越えればいいのか――。誰もが悩む問いに、人生の苦楽を知り尽くす、医師の和田秀樹氏がアドバイスする。
* * * 歳を重ねても健康に生きていくための秘訣は何か。よく聞かれる質問ですが、長年高齢者医療に携わってきた経験からすると、答えはとてもシンプルです。それは病気を過度に恐れないこと。言い換えれば「身体に気を配りすぎない」ことです。 私は幸せを感じながら老後を生きる「幸齢者」という概念を提唱していますが、無理に病気を見つけないことが「幸齢者」の条件だと考えています。 その最たるものが検査です。病気の早期発見のために健康診断や人間ドックを受け、数値に一喜一憂する人は多いでしょう。そして検査で何かしらの“異変”が見つかると、「正常値(基準値)」に近づけるために薬を処方される。高齢になると1日10錠以上の薬を服用するケースもザラです。 ところが高齢の医師のなかに、たくさん薬を飲む人はほぼいません。それは薬の副作用の恐ろしさを知っているからです。 服用する薬が5種類以上になるとふらつきによる転倒リスクが40%も高くなるというデータがあります。これにより骨折し、寝たきりになるケースもある。本末転倒です。 そもそも健診や人間ドックの「基準値」には、医学的根拠がないものも少なくありません。 例えばコレステロール値は、「基準値より上のほうが長生き」というデータが多数存在します。コレステロールは細胞膜や性ホルモン、脂質やタンパク質の消化・吸収を助ける胆汁酸などの材料になるもの。数値を下げすぎてしまうと不調や意欲低下、うつ状態を招く場合もある。 ある程度歳を重ねたら、「高い」よりも「低い」ほうが危険なケースがあるのです。
できることに意識を向ける
大切なのは数値ではなく、「自分の感覚のバロメーター」に従うこと。何らかの不調が出ているなら薬を飲めばいい。しかし、不調もないのに薬を飲む必要はありません。 数値には大きな個人差があります。健診の数値だけを見て「薬を飲んで」という医師からは早く逃げたほうがいいでしょう。 恐れられている「がん」についても、勘違いしている人が多いようです。がんが見つかるとすぐに手術となりがちですが、80代になったら「がんは切らなくていい」というのが私の考えです。 がんの手術は負担が大きく、体力が大幅に落ちてしまう。またがんの進行は歳を重ねるごとに遅くなるので、結果的に切らないほうが長生きできることも多いのです。 がんは手遅れになるまで痛くもかゆくもないケースが多く、もし見つかったら「あったらあったで仕方ない」ととらえ、「がんとともに生きる」ことを考えるほうが生活の質は上がります。そもそも85歳を過ぎれば、ほぼ全員にがんがあるといわれています。 歳を重ねれば、体の機能が衰えてくるのは自然なこと。それを受け入れることが大切です。「あれができなくなった、これもできなくなった」と考えていると、脳の老化が早まり、老人性うつにつながりやすいことがわかっています。 逆にまだこんなに歩ける、こんなに食べられる、と「できること」に意識を向ける。「できる範囲で頑張ろう」と思えるようになれば、より意欲的に、より楽しく生きることができるはずです。 食事も好きなものを食べて、笑顔で過ごすほうが免疫力が上がり、結果的に病気も遠ざかります。 幸せな老後を生きる「幸齢者」になる道は実に簡単なのです。 【プロフィール】 和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書に『80歳の壁』『幸齢者』『医者にヨボヨボにされない47の心得』など。 ※週刊ポスト2025年1月3・10日号