元物産社長の宇宙商社が直面したベンチャー組織化の壁。「人が集まれば組織になる」の罠
「採用しても定着せず」の苦い過去
実は、永崎さんには苦い過去がある。 2021年にSpace BDで10億円の資金調達を実施した際に、給与レンジを上げて高度な人材の採用を進めた。ただ、マネジメントの観点からうまくワークさせることができず、結局定着することはなかった。 永崎さんは、 「言葉としては『梁山泊(りょうざんぱく)』とか『一騎当千』という表現を使っていて、めちゃくちゃ優秀な人を集めて、その人たちが活躍してくれれば、結果として組織ができると思っていたんです」 と、当時の組織づくりに対する考え方を振り返る。 かつてのSpace BDは、社長の永崎さんをトップに他の従業員はフラット型の「文鎮型組織」だった。小規模な組織で目も行き届き、やるべき課題もはっきりしていたため、十分その体制で回っていた。しかし、採用した人材に対して、働き方の質も量も、永崎さん自身のプレイスタイルを押し付けてしまっていたという。 「(その失敗を経て)何か根本的に見直さないといけないと思いました。立ち上げ期は創業者の腕っぷしでなんとかこじ開けるんだけど、ある程度までくると今度はチーム戦にしていかないと、安定しない。これはもう歴史が証明している話です」(永崎さん) ただ、いざ組織化しようにも課題があった。当時の社員は年齢層が比較的若く、前職でマネジメント経験のある人材が少なかった。
若手の「お手本」人材、どこから採るか
プレイヤーとして優秀でも、異なるスキルセットが求められるマネージャー業務でうまくワークするとは限らない。とりわけ、宇宙業界では政府機関やJAXAといった公的機関や大企業との連携が重要となり、「若いスタートアップ」としてのやり方だけでは対応しきれない複雑さもある。 Space BDでは、こういった「ギャップ」を埋めるために、いわば若手の「お手本」になるマネジメントスキルを持つ人材も、ここ数年で採用するようになっていった。組織づくりを念頭に置いた採用にシフトしたのだ。 2023年4月には、元三菱商事執行役員で長年宇宙関連の事業に携わってきた安野健二氏が加入するなど、宇宙産業への熱意も、マネジメントスキルも持つシニア人材も加入するようになった。 いま永崎さんが求めているのは、まさにそういった「プロマネ人材」に尽きるという。 「コミュニケーションに長けて、自分で模索できる人がいいです。自分で考えをひねり出して、仮説を整理して、プロジェクトが動き出したらいろんな人を巻き込んで気持ちよく仕事してもらうような」(永崎さん) ただ、こうした人材を採用するのであれば、むしろ転職エージェントなどを活用して一本釣りする方が良さそうにも思える。 もちろん、Space BDではエージェントを活用した採用活動も実施している。ただ、会社への理解、宇宙産業という未踏領域を突破しようという熱意を兼ね備える人材を見つけ出すのはそう簡単ではない。 「もっと勝負していくために人を増やそうとしている中で、会社本来の魅力を訴求できていないのであれば、すごくもったいない。 いまでは3年前なら絶対にうちに来てくれなかったような人も採用の窓口まで来てくれるようになり、成長がちゃんと(外部に)伝わっている側面はある。エージェントを使っても同じ結果になる可能性もあるとは思いますが、採用は強化してもしすぎることはないと思っています」(永崎さん)
三ツ村 崇志