ダニー&マイケル・フィリッポウ監督が明かす、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』世界的ヒットの秘密
『ミッドサマー』(19)の気鋭スタジオA24が北米配給して、A24ホラー史上最高の興行収入を記録したホラー映画、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が公開中だ。本作を監督したのは、登録者数682万人(2023年12月24日現在)の YouTubeチャンネル「RackaRacka」を主宰する双子のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟で、これが初監督とは思えない堂々たる演出力は批評家からも称賛を受けた。 【写真を見る】その衝撃に全米の観客が絶句…怖すぎる新時代のホラーとは? この公開にあわせてダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟が初来日。MOVIE WALKER PRESSでは、「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞し、現在清水崇監督のプロデュースを受けて長編初監督となる『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』を制作中の近藤亮太監督を聞き手に迎え、若手ホラー映画監督同士による、ホラー愛に満ちたインタビューを敢行した。 ■「YouTubeの撮影で、世界中の怖い場所に随分行きましたが、あまり怖いと思わなかったです」(ダニー) 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』で描かれるのは現代の若者たちの姿。母を亡くした痛みを抱える17歳のミア(ソフィー・ワイルド)は、父親とも気まずい関係が続き、日々寂しさを感じていた。そんなある時、同級生たちの間で流行っている“憑依チャレンジ”を行なうパーティに、親友のジェイド(アレクサンドラ・ジェンセン)と共に興味本位で参加する。そこでスリルと背徳感、そして高揚感を味わったことからたちまち“憑依チャレンジ”の虜になっていくミア。しかし再びパーティに参加したミアは降霊のルールを破ってしまい、ジェイドの弟ライリー(ジョー・バード)が邪悪な魂に支配されてしまうことになる。 ダニー・フィリッポウ監督(以下ダニー)「清水崇監督のプロデュースで監督作を作られているということでしたが、すごくクールですね!完成したら100%チェックします」 ――ありがとうございます。ホラー映画監督の先輩であるお2人に、今回は是非いろいろとお話を伺えればと思います。『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』も拝見して非常に刺激を受けました。本作はメジャーなホラー映画とは異なったアプローチで攻めた内容でありながら、世界中でヒットもしています。この映画はなぜ世界の人々に受け入れられたと思いますか? マイケル・フィリッポウ監督(以下マイケル)「実は、本作の制作にあたって、ハリウッドの大きいスタジオからもアプローチされていました。でも大きな映画では、すでに公開日も決まっていたりしてコントロールが難しい。それなら母国のオーストラリアでインディペンデント映画として撮ろうと2人で決めたんです。僕たちはなによりまず、自分たちにとって誇りに思うような映画が作りたいと考えていました。どのように受け入れられるかはわからなかったですが、自分たちが作ってよかったと思うような映画を作りたかった。だから、正直なところ、なぜ受け入れられたのかは、自分ではよくわからないですね」 ダニー「本作はすごく個人的な映画で、とてもユニークな自分たちだけの『声』に従って撮った映画です。ホラー映画を撮る上で、そこが凄く重要だと思いますね。だから、あなたが自分で映画を撮る時も、自分の個人的な声を大事にしてほしいと思います。誰かが言ったからとかではなく、全ての面に関して自分が理解したうえで、クルーや俳優たちに深いところから言えるようにすることが大切だと思います」 ――お2人自身の感覚に従ってすべてをジャッジしていったのですね。非常に参考になります。 ダニー&マイケル「長くてごめんなさい(笑)」 ――日本でもゾンビ映画や怪談など、最近ホラージャンルが盛り上がっているのですが、なぜホラーブームが再燃したと思いますか。また、お2人はなぜホラー映画を撮ろうと思ったのでしょうか。 ダニー「小さい時からホラー映画が大好きだったからです。ホラーというジャンルは、ダークなテーマを楽しく探求するのに最適だったというのも大きいと思います。ホラー映画は何度もブームが来て復活しますが、それはおそらく、共同体的な体験を得られること――つまり派手なVFXなんかがなかったとしても、みんなで騒いで楽しむことができるジャンルであるというのが大きいんじゃないかと思います」 マイケル「マーベル映画なんかも、ジェットコースターのような楽しさがありますよね。特に若い人たちにとっては、ホラー映画をみんなで観賞して、怖がる。そういう体験こそが楽しいんだと思います」 ――お2人にとってなにが怖いかをぜひ教えてください。幽霊、悪魔、殺人鬼など…色々ありますが、どのようなものが怖いと思いますか? ダニー「個人的な感覚としては、他者との接触がなくなること、孤独になることが怖いと思います。YouTubeの撮影なんかで、世の中の怖い場所、呪われていると言われるような場所も、ベスト10のうち7くらいは行ってると思いますが、特になにも起こりませんでした。だから逆に、外的なものはあまり怖いと思わないですね」 マイケル「僕たちは、わざわざ能動的に怖いところを探しに行っています。そういう場所で寝てみたりとかもしましたが、別にあまり怖いと思いませんでした。だから、感情的なもののほうがより怖いと思います」 ――本作でも扱われているような降霊術…日本で言う「コックリさん 」(ウィジャボード)はオーストラリアでもポピュラーな遊びなんでしょうか? マイケル「ウィジャボードはオーストラリアにもありますよ。でも、オーストラリアでもっとポピュラーなのは、呪われた場所に行く、という遊びです。自転車に乗ってぶつかって死んだ人がいる場所に行って、死者と同じスピードで自転車を漕いで、同じ時間に走っていくと、死者が乗っていた自転車のライトが見える…なんていう遊びですね」 ――日本でもそういう肝試しをする若者はいますね。 ダニー「結構危なくって、よそ見した瞬間に本当にぶつかったりすることもあるんですけどね(笑)」 ■「SNSも含めて若者をリアルに描くことで、なにかが起きたときの衝撃を大きくする効果を狙いました」(マイケル) ――本作ではスマートフォンを使って降霊術を撮影していますよね。それをSNSに投稿するといった展開は逆に描かれなかったのですが、作品づくりにおいてソーシャルメディアの扱い方をどのように考えていますか? マイケル「僕たちはソーシャルメディアについての映画ではなく、若い人たちに関する映画を作りたいと考えていました。若い人たちを描こうと思うと、必然的にSNSがついてくるので、映画のなかでSNSを登場させています」 ダニー「それに、映画のなかでは作り物のソーシャルメディアのプラットフォームを使いたくはないと考えていました。オーストラリアでは『Snapchat』が流行しているんですが、今回は許可をとって実際の『Snapchat』の画面を使っています。もしこれが偽物のプラットフォームを使っていたら、観客が物語と切り離されてしまうから、本物を使えてよかったと思います。でも、『Bookface』っていうソーシャルメディアは映画内に出てきていますね(笑)」 ――降霊会の様子がスマートフォンで共有される描写によってリアリティが付与されていると感じました。そういった効果を計算したうえで組み込んだということですね。 ダニー「そうなんです。僕たちは、観客がリアルに感じるということをとても大事にしています。なにか極端なこと…幽霊やエイリアンが出たとか、いろんなものがソーシャルメディアに投稿されているけど、全部フェイクなのは皆わかっています。また、そういうものがフェイクだと慣れてしまっていると感じます」 マイケル「だから、世界やキャラクターをリアルに感じさせることで、なにかが起きたときの衝撃が大きくなる。そういう効果を狙っていました」 ――お2人はYouTuberでもあるわけですが、YouTubeのオススメのホラー動画といえば? ダニー「僕はKane Pixelsの『The Backrooms (Found Footage)』とか、『Analog Horror』が好きですね」 マイケル「『Super Eyepatch Wolf』というチャンネルの、『インターネットがガーフィールドにやったこと(What The Internet Did To Garfield)』は変な感じがして怖かったですね。オススメです」 ダニー「あなたのオススメも教えていただけますか?」 ――日本では「フェイクドキュメンタリー『Q』」というシリーズがあってとても怖いので、観てみてください。 マイケル「それは気になります。ぜひ観てみますね!」 このあともフィリッポウ兄弟は、近藤監督がYouTubeの「FAKELORE-フェイクロア」というチャンネルに『アイスの森/禍話』という動画をアップしていると知るとその場でチャンネル登録をしたり、短編版『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』のフッテージを観て歓声を上げたりと、時間の許す限りホラークリエイター同士の映画談義に花を咲かせていた。 取材・文/近藤亮太