ディズニーが仕掛ける日本発オリジナル作品の世界展開を読み解く。柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆らが主演
シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズで開幕中の「ディズニー・コンテンツ・ショーケース2024」。 【全画像をみる】ディズニーが仕掛ける日本発オリジナル作品の世界展開を読み解く。柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆らが主演 数々の新情報が解禁される中、日本発のオリジナル作品『ガンニバル』のシーズン2がディズニープラスにて2025年3月19日から配信されると発表した。 ディズニープラスは、この3年間でアジア太平洋地域において130以上のオリジナル作品を製作・配信してきたが、『ガンニバル』はシーズン2が作られる最初の作品になるという。 ディズニープラスと言えば、「SHOGUN 将軍」の世界的大ヒットが記憶に新しい。加入者は全世界で2億人。そんな大舞台でディズニーが仕掛ける日本オリジナル新作は何を目指すのか。
ディズニーのイメージを覆す作品
そもそも『ガンニバル』とは、ディズニープラスで2022年末に配信され、人気を博したサイコスリラー作品だ。 主演は柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆ら。累計発行部数350万部の大ヒットコミックを原作とし、脚本はアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允が、監督は片山慎三が務める。 あらすじはこうだ。岡山県のある山村に駐在として赴任することになった警官の主人公・阿川大悟(柳楽優弥)は「この村では年に一度の祭りの夜、人を食べているのではないか?」という疑惑を持ち、捜査を進める。 すると村を牛耳る「後藤家」、そして彼らに従う村人たちからさまざまな角度での嫌がらせや暴力的な衝突が生じていく── 。 本作はいわゆる「ビレッジホラー」というジャンルでもあり、近年では『ミッド・サマー』が世界的にヒットしている。 シーズン1を実際に視聴すれば、そのグロテスクさと衝撃的な展開の連続に、「これがディズニーの名の下で配信されているのか」と驚くだろう。 ただ、ディズニープラスの中でも、『ウォーキング・デッド』などを扱う「スター」ブランドで配信されていると分かると納得がいく。
キーワードは「オーセンティシティ」
ディズニーが本作に力を入れる理由は、「オーセンティシティ」というキーワードで読み解くことができる。 オーセンティシティとは「信頼がおけること、誠実さ」と訳される概念だ。 例えば、「SHOGUN 将軍」では真田広之を始め多くの日本人が監修に入り、配役も日本人の役には日本人を起用した。それによって「トンデモ日本」が描かれることを防ぎ、「日本の時代劇」が世界の舞台で評価された。まさに「オーセンティシティ」を体現していると言えるだろう。 ディズニー・エンターテイメントの共同チェアーマン ダナ・ウォールデンも、「SHOGUN 将軍」の大ヒットを受け、「大胆なオーセンティシティへの挑戦を体現したような作品」「最高の物語や世界的なヒット作は、どんなところからも生まれる可能性がある」と本イベントのオープニングスピーチで評している。 では、ガンニバルにはどんなところにオーセンティシティが発揮されているのか。 私は「ガンニバル」シーズン2発表の際にサプライズ登壇した主演俳優・柳楽優弥の発言が分かりやすいと思った。 柳楽は本作について「日本人の、感情を表に出さないという性質が本作の怖さにつながっている」「日本にはバイオレンスアクションとしてリアリティを重視した作品群がある。本作も監督がその点に力を入れている」と指摘した。 ここからはあくまで私の解釈だが、「ガンニバル」が表現しようとしている日本人性とは「村社会的な空気とルール、そして、それに逆らうものへの暴力性」と解釈できるのかもしれない。 言うまでもなく、その性質は現代にも息づいている。世間の掟を破ったものに対するワイドショーでの吊し上げや、SNS上での激しいバッシングなどはその典型だろう。 つまり、日本人が描く日本人的な物語が「ガンニバル」には集約されているのだ。 今回のショーケースでは韓国発のオリジナル作品も多数紹介され、ディズニーがローカルクリエイターたちとの協業を通じて、各国ならではの物語を掘り出し、世界配信していくことを重視しているように感じた。 それは文化を盗用しないということでもあるが、同時に作品は自然とオーセンティックで、他国の人からすると見たことのないものになるということなのだろう。 ちなみに、ディズニープラス最大のライバルと言えるNetflixの製作姿勢にもオーセンティシティは貫かれているように感じる。 Netflixでアジアのコンテンツ統括を務め、「イカゲーム」を仕掛たキム・ミニョン氏は、2024年1月にBusieness Insiderの取材に対し、以下のように語っている。 「人に感動を与えるにはまず、自分が一番よく知っているストーリーを語らなくてはいけない。韓国語の企画ならば韓国人に一番グッとくるようでなければならない。(中略)だからまず自国でのヒットが大切。自国ではダメだったけど世界ではヒットしたという作品は求めていない」 また、アニメ監督として著名な新海誠氏も、JFF THEATERの2023年の取材に対し、「『言の葉の庭』(2013)は『日本庭園で万葉集を読む』というかなり日本的な作品になったのですが、海外の上映でとても評判が良かったんです。(中略)自分たちの足元を掘るような作品をつくったとしても、海外でも楽しんでくれる人がいる」と語っている。 これらの根底にある潮流を読み解くと、その国ならではのユニークな物語を描くことこそが海外ヒットの観点でも重要であるということなのだろう。 取材協力:ウォルト・ディズニー・ジャパン
野田 翔