今回の新刊で3冊目。ハライチ岩井勇気が語る「思考を整理するためにエッセイを書く」
◇「ハライチの岩井」を前提にせず書いた ――発売イベントで島崎和歌子さんにご自身のエッセイを渡した、というお話がありましたが、それ以外に誰か身近な方で渡しましたか? 岩井:爆笑問題さんにはお渡ししましたね。でもそれくらいかな…? ――相方の澤部さんには? 岩井:渡してないです。あいつは読まないんで(笑)。 ――(笑)。たしかに『ハライチのターン!』でも、エッセイ出版は素晴らしいことなのに、澤部さんは岩井さんをいじっている感じが出てましたね、タイトルも『平坦道僕(へいたんみちぼく)』って勝手に略してましたし(笑)。 岩井:(笑)。でも実は読んでくれたら嬉しいけど、「絶対みんなに読んでほしい!」とは思ってないんです。それよりも、書き溜めたものを1冊の本にして世に出せたことに対して、スッキリした! という感情のほうが強い。もともと思考を整理するのが好きなんですよ。なので、本にするにあたって、自分が読み返しても気に入るように、細かく全部書き直しました。 ――具体的にはどういったところを? 岩井:「はじめに」と「おわりに」は最後まで書き直しました。あとは、すらすら読めないところは直しましたし、語尾にもこだわりました。 ――編集担当の方が「ここを直したほうがいい」ってアドバイスすることもあるんですか? 岩井:いやー、ないっすね。以前、読み切りのエッセイを書いた時に「あからさまにボケなくていいですよ」って言われたくらいで、それ以降はほとんど言われないです。文章を書いてきた人間ではないので、ずっと不安なんですけどね(笑)。「これで合ってんのかな?」と思いながら書いてます。 ――直されてないのはびっくりですね。岩井さんは岩井さんなりのルールやこだわりみたいなものをお持ちな気がしたんですが、エッセイを書くときに意識していることってありますか? 岩井: 「ハライチの岩井勇気」を前提にせず、俺のことを知らなくても読めるようには意識しました。芸能人の方が書くエッセイはよくありますけど、その方々にならって「ご存じ」って書き方をしてしまうと、「誰なんだよ」「お前のこと、文学界では誰も知らないよ」って声が聞こえてきそうで(笑)。 ――たしかに、固有名詞があまり使われていませんでしたね。 岩井:そうなんです。仲の良い芸人ですら、名前を出して書いていないですから。 ◇キレるよりも人のことを見下すほうがストレス ――特に「『許す』をテーマに生活してみたら」の話、とても面白かったんです。世渡り上手な人に憧れるけど、細かいことでも気になってしまいモヤモヤする方も多いと思います。とはいえ、最後にあったようにちゃんと怒るようにする、まではいけない…… 岩井:そういう性分なんですよね。見下している人から何を言われても怒らないじゃないですか。嫌なことやモヤモヤが残ることを言われても許せるのは、相手をかなりナメてるパターンです。俺は子ども相手にもおかしいと思うことは「おかしいだろ?」ってちゃんと叱ります。子ども扱いしないし、大目に見ない。でも、そのほうが絶対に良いと思うんです。俺自身、子ども扱いをされないほうが嬉しかったので。 ――どんな人とも常に対等であろうと間違ったことをちゃんと指摘することは、結構ストレスがかかる行為だと思うんですけど……。 岩井:自分のなかでストレスを天秤にかけていますね。キレるよりも、大目に見ることで「この人のことを見下してるな」って思うほうがストレスなんです。対等に向き合って、それで腹立つほうがストレスはないです。 ――すごい思考術ですね、昔からずっとそうなんですか? 岩井:集団に流されない傾向は小さい頃からあったと思います。自分は覚えてなかったんですけど、小学校の授業参観でAかBを選ぶ問題が出て、みんながAを選ぶなか、俺は「これはBだろう」と思って、Bに手を挙げたんです。Bを選んだのは俺一人だったんですが、結局Bが正解だったんですよ。見に来ていた母親はその時に「この子は一人でも怖くないんだ」と思ったと、あとあと聞かされました。 ――マイノリティであることが怖くないんですね。 岩井:怖くないです。一人でいるより、自分が思ったことを選択しないストレスのほうが大きいです。まあ、親もヤンキーだったし(笑)、その血筋を引いてて、度胸があるんだと思います。 ――今のお話を聞いて思い出したのですが、自分の中で一番しびれたのが2009年にハライチが初めてM-1決勝に出場した際の「来る途中で子犬が車にひかれてて……」っていうツカミです。緊張感が溢れる会場でみんなが面白いことを期待しているなか自分の好きなツカミをしたのがかっこいいと思って。 岩井:あ~、あれは、もともとライブでやってたツカミなんですよね。作ったのは俺ですけど、「決勝はあれじゃないほうがいいよな……」と思って澤部に相談したら「やったほうがいい!」と言ってきて。そこまで言うなら、と実際やったら、「かわいそう……」とか「あそこだけ引きました」とかいろいろ言われました(笑)。 俺がいきなり勝手に話しだした感じで見せてますけど、実はやったほうがいいって言ったの、澤部だからね!って未だに思います。というか正直、こういう時に澤部に意見を聞いて良かった試しがないんですよ。だからここぞという時には自分を信じたほうが絶対にいいなと気付いた出来事として心に残ってます。