【米大統領選2024】 両候補が「必勝」ペンシルヴェニア州で最後の支持訴え 投票前日
米大統領選挙の投票日前日の4日、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領と共和党候補のドナルド・トランプ前大統領はともに、激戦州の中で選挙人が最も多いペンシルヴェニア州を訪れ、最後の選挙運動を展開した。この間、期日前投票の数は8100万票を超えたもよう。 フロリダ大学選挙研究所によると、期日前投票の数は8137万票を超えた。このうち、約4440万票が投票所での直接投票で、約3700万票が郵便投票という。前回の2020年大統領選は新型コロナウイルスのパンデミックの最中だったため、期日前投票は1億票を超えた。2016年の期日前投票は4720万票だった。 ハリス候補は投票日の前夜、ペンシルヴェニア州の4カ所を訪問した。フィラデルフィアで最後の集会を開き、歌手のレディ・ガガ氏やテレビ司会者のオプラ・ウィンフリー氏ら有名人が参加した。 ハリス候補はピッツバーグに先立ちアレンタウンで、「アメリカは新しく出発する用意ができている」、「同じアメリカ人を敵ではなくお隣さんとして見る場所へ向かって、アメリカは新しく出発する」と強調した。 トランプ候補も同州での必勝を期しており、ピッツバーグとレディングで2集会を開いた。 トランプ候補は同じピッツバーグ市内で集会を開いているハリス候補の聴衆は自分より少ないとしたほか、「カマラに入れればもう4年間、みじめな失敗と悲惨な事態が続く。この国は二度と回復しないかもしれない」と警告。自分が当選すれば「世界が見たことのないような素晴らしい経済成長に着手する」と約束した。 トランプ候補はさらに、選挙戦最後のイベントを、ミシガン州グランドラピッズで開いた。 選挙アナリストのネイト・シルヴァー氏は、ペンシルヴェニア州で勝利した候補がホワイトハウスの主となる確率は90%以上とみている。 「激戦州の中でも最も重要だ」。2007~2011年に同州北東部の選挙区選出の民主党下院議員だったパトリック・マーフィー氏もそう言う。 全米50州で人口が5番目に多いペンシルヴェニア州は、選挙人を19人擁する。ハリス、トランプ両候補にとっては、激戦州の要所となっている。 民主党がペンシルヴェニア、ウィスコンシン、ミシガンの3州と、ネブラスカ州の選挙区の一つで勝てば、ハリス候補が次期大統領となる。共和党がペンシルヴェニア、ノースカロライナ、ジョージアの各州を獲得すれば、トランプ候補が来年、再びホワイトハウスに戻る。 トランプ候補はペンシルヴェニア州を落とせば、2020年大統領選でジョー・バイデン大統領に負けた州のうち少なくとも3州で「逆転」勝利しない限り、今回の選挙での勝利はない。 「要石(キーストーン)の州」とも呼ばれるペンシルヴェニア州は、実際にホワイトハウスに直結する鍵となり得る。 ■アメリカの縮図の激戦州 ペンシルヴェニア州は、最も価値ある激戦州というだけでなく、人口動態、経済、政治の面から、アメリカの縮図といえる。 かつては製造業が盛んだったが、最近は新たな産業やビジネスへと移行している。シェール油の豊富な埋蔵があることから、エネルギー業界も大きい。農業は依然、州第2位の産業となっている。 人口の大半は白人だが、移民コミュニティーが拡大している。歌手ビリー・ジョエル氏の歌で有名になった労働者階級の工場都市アレンタウンなど、ヒスパニック系が多数を占めるようになった地域もある。黒人の人口比率は12%で、全国の13%をわずかに下回っている。 政治面では、2大都市圏のフィラデルフィアとピッツバーグで、民主党がかなり優勢な状況だ。この大都市圏の間に広がる人口の少ない地域では、共和党が圧倒的だ。かつて保守的だった郊外は、現在は左に傾いている。 そのため昔から、「ペンシルヴェニア州はフィラデルフィアとピッツバーグでできていて、その間に(共和党が強い)アラバマ州がある」と言われる。 こうした政治的な潮流と力学の変化により、ペンシルヴェニア州は大統領選で、民主・共和にとってほぼ互角の戦場となっている。バイデン大統領は2020年に約8万票差でこの州を制した。トランプ候補は2016年にヒラリー・クリントン元国務長官に約4万票差をつけて驚きの勝利を手にした。 過去40年間の大統領選で、10%以上の得票率差をつけてペンシルヴェニア州を制したのは、2008年に大勝したバラク・オバマ元大統領(民主党)だけだ。 3日発表の米紙ニューヨーク・タイムズとシエナ大学による同州での共同世論調査では、トランプ、ハリス両候補の支持は48%で同率という状況だった。以前の調査でも激しい競り合いだったが、ハリス候補がわずかにリードしていた。 ■大統領選勝利の鍵 ハリス陣営もトランプ陣営も、ペンシルヴェニア州に膨大な資源を投入してきた。使ったテレビ広告費は激戦州の中で最も多く、投票前夜の熱狂的な選挙運動の前から、両候補ともたびたび同州を訪れてきた。 ハリス候補が副大統領候補としてティム・ウォルズ・ミネソタ州知事を紹介したのはフィラデルフィアの集会だった。テレビ討論会の前には、ピッツバーグで何日もかけて準備した。9月には経済に関する演説をした。 一方のトランプ候補は10月、暗殺されかける事件が7月にあったバトラーで大規模集会を開いた。数週間後にはバイデン大統領の地元スクラントンとレディングを訪れた。 両候補が同州から離れているときは、両陣営とも政治家や関係者らを呼んで支持を訴えた。 ハリス候補にとって勝利への鍵となるのは、フィラデルフィアとピッツバーグで圧勝し、郊外でも、トランプ候補のそれ以外の地域での優勢をカバーできるだけの票を獲得できるかだ。 この戦略では、穏健派や一部の共和党員を取り込むことが不可欠になる。ペンシルヴェニア州で4月にあった共和党の予備選では、トランプ候補がすでに党の指名を固めた後だったにもかかわらず、ニッキー・ヘイリー元サウスカロライナ州知事が16万票を獲得した。そうした投票行動を示した共和党員の取り込みを、ハリス陣営は狙う。 一方、トランプ候補の戦略は、州内の保守的な地域でできる限りの支持を絞り出すことだ。これには、過去の選挙で投票しなかったであろう人々に有権者登録と投票を働きかけることも含まれる。トランプ陣営はこうした取り組みを、自分たちの草の根活動の中心だとしている。 そうした活動が実を結びつつある兆しも見られる。同州の有権者登録者数は、民主党が依然として共和党を上回っているが、その差は数十万人程度となっている。これは、同州が人数の公表を始めた1998年以降で最小だ。 郊外で暮らす大学教育を受けた有権者を説得するのは難しいかもしれないが、ブルーカラーの労働組合員や黒人の若者の間で昔からみられる民主党への支持なら切り崩せると、トランプ陣営は考えている。 ■他の不確定要素 4年前は、新型コロナウイルスの大流行で200万票以上が郵便投票されたことが主な原因となり、結果が判明するまで何日か要した。大手メディアがバイデン氏を当選確実としたのは投票4日後だった。 今年は郵送投票は前回より減ると見込まれている。ただ、同州はすでに21万7000通の投票用紙を受け取ったと報告している。州法により、これらは選挙の夜まで開封できない。 もうひとつの不確定要素は、州当局が送った2万7000枚以上の軍関係者と在外投票のための投票用紙だ。今回の選挙が実際に、世論調査が示すほどの接戦になれば、到着と集計に時間はかかるだろうが、これらの票が決着をつける可能性がある。 (英語記事 Harris and Trump make final push in must-win PennsylvaniaHarris and Trump to make final cases to voters at last campaign rallies)
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