『ブギウギ』におでん屋・坂田聡は必要不可欠だ! その“味”のある演技パフォーマンス
村山愛助(水上恒司)の登場により、またにぎやかさが戻ってきた朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)。ヒロイン・スズ子(趣里)が健やかに過ごせている姿が見られれば、それだけで私たちも元気になれるというものである。 【写真】水上恒司インタビュー撮り下ろしカット もちろん、それは私たち視聴者だけではないだろう。劇中には彼女を見守る者たちが数多く登場する。おでん屋の店主・伝蔵もそのひとりだ。演じているのは坂田聡である。 本作はとにかくヒロインであるスズ子が魅力的だ。日本のエンターテインメント史に名を刻んだ昭和の大スター・笠置シヅ子をモデルとしているのだから当然といえば当然。喜怒哀楽の起伏が大きく感情表現の豊かな彼女を、主演の趣里がどう演じるかによって『ブギウギ』の手触りは変わってくるだろう。しかし“スズ子=趣里”の力だけで作品が成立し、成功するわけではもちろんない。人はひとりでは生きていけない。彼女の日常を彩る者たちの力が加わることでようやく私たちは『ブギウギ』という作品の全体像に、そしてスズ子という人間の人生に触れることができるのだ。 「東京編」でその役割を担っている者のひとりが、坂田聡が演じる伝蔵というわけだ。彼はスズ子が行きつけにしているおでん屋台の親父。ただの頑固者かと思いきや、なかなかチャーミングな一面も持つ人物だ。このおでん屋はスズ子の下宿のすず近くにあるものとあって、ここでのシーンはかなりの頻度で登場する。スズ子はアツアツのおでんを頬張り、お酒をぐいとあおる。それによりいつもとは少しだけ違う表情をしたスズ子が私たちの前に姿を見せる。つまり、このおでん屋のシーンは『ブギウギ』の中でも異質なもの。スズ子の人間くさい一面が見えてくる。 伝蔵がはじめて登場した際、またもクセの強いキャラクターが登場したと誰もが思ったことだろう。渋面を浮かべながらスズ子に接する彼は、東京にやってきたばかりの彼女にとって最悪だった。いまの時代でも「東京の人は冷たい」などと言われたりするものだが、それはこれだけ多くの人々が生活していくうえで、お互いにバリアを張り合っているからだと思う。ちゃんと言葉を交わしてみれば、理解し合えることだってある。伝蔵という存在はこのある種の「東京」を体現しているものだ。演じる坂田は表情だけでなく、セリフを口にする際の声の質感などにもこれを滲ませていた。趣里がいつもとは少し違うスズ子像を作り出せているのは、それを受ける坂田のパフォーマンスの賜物でもあるだろう。 そんな坂田といえば、本作『ブギウギ』の脚本を担当する足立紳作品の常連俳優でもある。足立が脚本を手がけた『百円の恋』(2014年)や『きばいやんせ!私』(2019年)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020年)や『アンダードッグ』(2020年)だけでなく、足立の監督作である『14の夜』(2014年)と『喜劇 愛妻物語』(2020年)にも出演。いずれも出番の多寡にかかわらず、クセ(「味」とも言い換えられる)のある演技で作品を盛り上げてきた。とくに『百円の恋』は公開当時に非常に話題となった作品だということもあり、劇中で坂田が演じたあの卑しい性格のコンビニ店員役を鮮明に覚えているかたが多いのではないだろうか。 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 ブギウギ Part1』(NHK出版)にて、坂田は「物語の本筋に関わることはありませんが、屋台にやってくるヒロイン・スズ子や登場人物たちを、時にはぶっきらぼうに、時には優しく、おでんの湯気越しに見つめています。まさか自分が朝ドラに出られるとは夢のようです」などと述べているが、彼にしか担うことのできない役割を、いま確実にまっとうしているところだろう。伝蔵の存在をとおして、私たちはスズ子の本音を聞けたりできるのだから。坂田聡の出す「味」が、本作には必要不可欠なのだ。
折田侑駿