「能登半島を訪れて考えた『粘り強さ』の重要性」東浩紀
批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。 【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙はこちら * * * 11月に能登を回った。震災から1年近くが経ちようやく訪れることができた。 能登空港で車を借りて輪島と珠洲を見た。夜は和倉温泉に泊まった。工事関係者や土産物屋の方に話を伺った。 能登は広い。輪島から珠洲まで車で1時間はかかる。そのあいだ被害が続いている。倒壊した民家や崩れた山肌が次々現れる。自分でハンドルを握り被災地を回ると、広がりに圧倒される。その感覚は数枚の写真では伝わらない。 多くのひとに被災地を見てほしいが、それも気軽には言えない。道路も観光施設も復旧していない。輪島の朝市は焼け野原で珠洲の飯田港は地盤が崩れている。和倉温泉もようやく一部旅館が営業を再開した段階だ。復興ツーリズムで一般客を呼ぶには、まだ時間がかかるだろう。 むろん希望はある。印象に残ったのは能登島にある「のとじま水族館」だ。震災で被害を受け人気のジンベエザメも死んでしまったが、いまは新しい個体を迎え名前を募集している。復旧の苦労や来場者の声を集めたパネルがあり、関係者の熱意に心を打たれた。その土地を愛する人々がいるかぎり、被災地は必ず復興する。そんな思いを新たにした。 今年は大事件続きだった。本欄で取り上げられなかったものも多い。この2週間でも韓国で戒厳令騒ぎがあり、シリアでは独裁政権が倒れた。いずれも本来なら10年に1度と言われる出来事だ。 けれども最近はどんな事件でもあっという間に消費され、忘れ去られてしまう。たとえば7月のトランプ前大統領銃撃事件を、いまどれほどのひとが覚えているだろうか。アクセス数稼ぎのネットメディアの台頭がその忘却を加速している。 当事者はそうはいかない。能登の復興も始まったばかりだ。SNSでは復興が遅いとの批判をよく聞くが、被災地に立つと時間がかかることがよくわかる。それに粘り強く付き合うのが本当の支援だ。 ひとつのことをやり続けること。それこそが大事になる時代だと感じている。今年は日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。それもまた粘り強さが評価された受賞である。 ※AERA 2024年12月23日号
東浩紀