なぜスズキはトヨタを選んだか? 両社の「このままじゃダメだ」
トヨタ自動車とスズキが業務提携へ向けた検討を始めることを12日に発表しました。記者会見では「詳細はこれから」として、あまり多く語られることはありませんでしたが、両社にとって今回の業務提携の狙いは何なのでしょうか。モータージャーナリストの池田直渡氏が読み解きます。 【写真】“トヨタ帝国”に死角はないのか? ダイハツ完全子会社化の戦略を読み解く
突然の会見開催案内
10月12日15時09分、トヨタ自動車広報部から突然のメールが舞い込んだ。 “急なご連絡で大変恐縮ですが、添付の通り本日共同会見を実施いたしますので、ご多忙のところ、また遅い時間で恐縮ですが、ご来場賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。” 1.日 時: 2016年10月12日(水) 18:30~19:15 2.場 所: トヨタ自動車株式会社 東京本社 B1階 大会議室 3.会見者: スズキ株式会社 代表取締役会長 鈴木修 トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田章男 これは大事である。第一に鈴木修会長と豊田章男社長がそろってということになれば、常識的に事業統合系の話であることは見当が付く。 第二に東京証券取引所の後場の取引終了時間は午後3時まで、つまりこのメールは後場の終了をにらんで配信されている。それはつまり、両社の株価に重大な影響を与える内容であることを示唆している。話が前後するが、翌日の前場開始の午前9時から約1時間で、トヨタの株は途中迷いを見せながらも50円ほど上がった。一方のスズキはどうかと言えば、開始と共に一度上がり、すぐに下がり始めて、始値を一度割り込んでから回復した。ここまでほぼ1時間。 つまり12日の記者会見内容について、マーケットはトヨタは好感、スズキについては判断が割れているということだろう。一体その会見の内容はどんなものだったのか?
トップ競争抜け出す最良の手
常識的に考えれば、米GMや独VWなど数多くの提携先と浮き名を流しながら、最終的には独立独歩の気質が災いしていずれの相手とも添い遂げることがなかったスズキが、ついに嫁ぎ先を決めたのだろうと考えるのが妥当だ。スズキにはインドマーケットという莫大な“持参金”があり、かつ未来永劫独立を維持して世界のトッププレイヤーと戦っていくには体力的に不安があるので、いずれどこかと組むはずだと誰もが思っている。 トヨタ、VW、GMという年販1000万台級のトップグループにとって、スズキの300万台は労せずに競争から抜け出せる最良の手だ。仮にトヨタがスズキを射止めれば、国内と北米マーケットをトヨタとスバル、北米と中国の富裕層マーケットをレクサス、ASEANをダイハツ、インドをスズキという布陣で望めることになり、欧州戦略以外の全てに然るべき手が打てることになる。 なのでマスコミ各社はこの会見に色めき立った。世界自動車戦争の趨勢が決まる会見かもしれないからだ。トヨタ東京本社の大会議室は会見開始の15分前には満席となり、異様な熱気に包まれていた。 しかしながら、今回の会見にはおかしな点もある。今年1月29日には、トヨタとダイハツの緊急会見が開かれた。この時も後場の終了を待って案内が送られて来たが、会場は日本橋蛎殻町のロイヤルバークホテルだった。本来こうした会見はしかるべき舞台で行われる。何故トヨタ本社の会議室なのか? 蓋を開けてみれば、それは本当に緊急会見だったということだ。ホテルを手配する時間すらなかったのである。実は今回、記者会見会場で配られたリリースタイトルは「スズキとトヨタ、業務提携に向けた検討を開始」。サブタイトルが「環境や安全、情報技術等の分野で連携を強化」という曖昧なもので、具体的なことが何一つない。鈴木会長と豊田社長の説明によれば、話し合い開始を決めたのは今月に入ってからのこと。あくまでもこれから話し合いをして行きましょうということが決まっただけで、それ以上の一切は決まっていない。しかし、メリットが見えなければ話し合いを始める意味がない。そこに一体何があるのだろう?