シティ・ポップの立役者・杉真理『ウイスキーが、お好きでしょ』は「ウケないと思っていた」
竹内まりやは大学時代に結成したバンド『ピープル』のメンバーで、彼女がシンガーになるひとつのきっかけをつくったのも杉だった。
竹内まりやは「名を残す人だと思っていました」
「まりやは大学の1年後輩で、バンドでは最初コーラスばかりやっていたんです。“まりやちゃん、ソロで歌ったら?”とすすめたら“いや、私は……”なんて言うから、“じゃあ曲を作るから歌いなよ”と歌わせたのが最初でした。彼女は売れるかどうかはわからなかったけど、名を残す人だと思っていました。バンドに入ってきたときからそう。そういう勘は結構当たるんです(笑)」 近年盛り上がりが続くシティ・ポップの再ブーム。YouTubeをきっかけに海外のZ世代から火がつき、竹内まりやの『PLASTIC LOVE』(1984年)は約7000万回再生を記録している。 「シティ・ポップの再燃を感じ始めたのは数年前からでしょうか。ライブ会場で金髪で海外のお客さんをちらほら見かけるようになって。thの発音に気をつけなきゃ、なんて思うようになりました(笑)」 再ブームの後押しもあり、今年2月にシティ・ポップのオムニバス・ライブ『シティポップ・スタジオLIVE』の開催が決定。杉をはじめ、桑江知子、EPOら総勢14人のアーティストが集い、シティ・ポップの名曲を披露する。 「自分の好きな音楽をずっとやってきて、こうして世間が評価してくれた。今回久しぶりに会う人もいて、またみんなと集まれて本当にうれしいですね」 デビューから今年で47年。700曲以上の楽曲を手がけ、今なお新曲を作り続ける。そこには当然生みの苦しみがあると思いきや、「それがないんですよ」と言うから驚きだ。 「僕の場合、苦しんで作るとあまりいいものができないんです。たとえ悲しい曲でも、どこかでワクワクしながら作らないといい作品にはならなくて。苦しみより、早くできあがりが見てみたいという、ワクワク感がいつもあります」 シンガー・ソングライターはまさに杉の天職といった感がある。しかし彼自身、当初はその意識はなかったと話す。 「天職だと思えたのは50歳を過ぎてから。フランク・シナトラやビートルズとか、世の中には歌のうまい人がいるじゃないですか。彼らに比べたら、自分がシンガーと言ったらおこがましいと思っていたんです。でももういいやと開き直って(笑)。 やっぱり音楽って深いですね。理想の音楽に全然届かなくて、だからやるしかないとずっと思ってきました。いくらやってもまだ先があって、だから続けてこられた。理想にはまだ届かないけど、今は音楽が天職だといえるし、すごく楽しい。これまでの人生で今が一番音楽を楽しんでいる気がします」 取材・文/小野寺悦子