「対馬は日本の縮図」 家庭の食品ロス問題の新たな解決策、高校生が切りひらいた
食品産業の持続可能な発展に向け、食品ロス削減などで実績を上げている企業・団体・個人を表彰する「食品産業もったいない大賞」(主催:食品等流通合理化促進機構、協賛:農林水産省)。 2024年2月に開催された第11回で、キユーピーやファミリーマートなどの大企業を抑え、最優秀賞にあたる「農林水産大臣賞」を受賞したのは、長崎県立諫早農業高校の生徒たちだった。(食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美)
対馬市が抱えていた悩み
受賞したのは同校の部活動「生物工学部」の生徒たち。取り組んだのは「食品ロスの資源化」である。長崎県の離島・対馬の家庭の生ごみでつくられた堆肥(たいひ)をどう活用するか、生徒たちが対馬市と対馬市民と一緒になって進めた取り組みは、「日本各地でモデルとなる大きな成果」と評価された。 食品ロスの資源化は、すでに事業化している企業や自治体もあり、特にめずらしい取り組みとも思えない。では何が特別だったのか──。 対馬市では年間総量10132t(2021年度)の可燃ごみが発生し、そのうち約34%は生ごみと推計されている。水分含有量の高い生ごみを含む「燃えにくい可燃ごみ」を焼却するために、市では灯油などを助燃剤に使用しており、燃料費に年間6000万円以上のコストがかかっている。 また1人あたりの年間処理経費は、同じ規模の都市の平均が14685円なのに対し、対馬市では38191円とかなり割高になっており、対馬市民にとって負担となっている。 そこで市では、生ごみを分別回収して堆肥にする取り組みを推進。有機野菜の栽培に利用してもらい、育った有機野菜を学校給食や市の関連施設での食事に使うという資源循環計画を立てた。 希望者を対象にした生ごみの分別回収が始まったのは2012年度。つくられた堆肥は「堆(たい)ひっこ」と名付けられ、生ごみを提供してくれた市民に無償で提供されている。
できた堆肥をどう活用するか
市は、2030年に700tの生ごみを堆肥化するという目標を立てた。しかし、2020年の実績値は343tにとどまり、目標の半分にも達していない状況だった。 「SDGs未来都市」の対馬市にしてみれば、生ごみの資源化で成果を出したいところだが、問題はできあがった堆肥だ。今のところ「堆ひっこ」は人気で、できた分はすぐに引き取られていくが、生ごみの回収量を倍増させたとき、はたして需要はついてくるのか──。 生ごみからつくられた「堆ひっこ」を農家に利用してもらうためには、成分や有効性について市販肥料と比較したうえで、どんな野菜に適しているのか、施肥量や時期などの最適な使用方法について客観的な評価が必要だ。 そこで白羽の矢が立ったのが、以前から交流のあった諫早農業高校だった。生徒たちは2020年から、生育調査、比較実験、専門家や農家との意見交換、コスト計算、経営分析、情報発信、そして普及活動に大人顔負けの行動力で取り組んできた。 「堆ひっこ」のメリットとして、まず注目したのはコスト。日本の肥料自給率は、肥料3要素と呼ばれる窒素(N)が4%、リン酸(P)が0%、カリウム(K)が0%と、ほぼすべてを輸入に依存しているのが現状だ。 ロシアによるウクライナ侵攻で価格が高騰し、生徒たちの聞き取りでは肥料購入費だけで年間160万円のコスト増となった農家もあったという。「堆ひっこ」が無料で提供されることは大きな長所と考えられた。 ただ、肥料3要素をそれぞれが含まれる割合(%)で表した「N:P:K」で比較すると、例えば市販のジャガイモ専用肥料では「12:12:10」、化成肥料で「14:14:14」なのに対し、「堆ひっこ」は「4:3:2」と少なめだった。 そこで生徒たちは、植物の生育を促す窒素(N)の量を基準に「堆ひっこ」の施肥料を3~3.5倍に増やし、野菜の生育調査を行うことにした。 その結果、ジャガイモ、メロン、ホウレンソウの生育調査からは、市販の肥料との比較で生育と収量が同等であること、ハクサイに関する生育調査からは、施肥は植えつけ当日にすると生育がいいこと、などがわかった。 さらに実験を繰り返すことで、最終的には作物ごとに「堆ひっこ」施肥の適正量を見つけることができた。専門家からは「成分的に堆肥ではなく肥料として利用可能」とお墨付きをもらっている。