「サステナビリティは『競争』じゃない。日本だから果たせる役割がある」
本記事の対談は、ハイネケンのサステナビリティへの取り組み事例をもとにしています。 【画像】SDGs担当者必見。ハイネケンのサステナビリティの取り組みを解説
「敵」を明言することで「味方」が生まれる
山口周 ハイネケンはメキシコで「女性に暴力を振るう男はハイネケンを飲むな」というメッセージ性のある広告を打ち出しています。 まさにこれは「ディマーケティング」。通常のマーケティングとは真逆をいっています。 ディマーケティングの好例として思い出されるのが、1959年にフォルクスワーゲン社が米国で発表した伝説の広告「シンク・スモール(Think Small)」です。 当時、戦後のバブルに浮く米国では大きくて派手な車が人気だったのですが、フォルクスワーゲンはあえて大きな余白のなかに小さなビートルを置き、小さな車にしかない価値を強調しました。 1984年、創業8年目のアップルによる初代マッキントッシュの映像広告では、ジョージ・オーウェルの小説『1984』で描かれるような全体主義的な世界を一人の女性が打ち砕く様子が映し出されました。この広告では、マッキントッシュの機能については一切触れられていません。 いわば、ハイネケンは広告で「敵の宣言」をしているわけです。「あなたには顧客になってほしくない」という宣言は、その反作用として味方を作り出します。 大企業になるほどこうした尖ったメッセージングにはリスクも伴いますが、ハイネケンのような伝統ある大企業が明確に敵の宣言をしているのはさすがとしか言いようがありませんね。 磯貝 ティファニーは、いちはやく男性同士のカップルのために婚約指輪の宣伝を打ち出しました。BLM運動が米国で広まりをみせたとき、ナイキは明確に黒人コミュニティを支援する姿勢を示しました。 このように自社のポジションを明確にする行為には確かに敵を生み出すリスクがあります。ですが、同時にファンを強く惹きつける。人権や環境問題も含め、サステナビリティの分野でも同じことが言えると思います。 山口 好きなものが同じ人には親近感を覚えるし、嫌いなものが共通している人はさらに親近感を覚えますよね。 ちなみにアップルは1980年代の広告では敵の宣言をしましたが、1990年代の広告では味方の宣言をしています。後者では“Think different”というコピーで、世間で変わり者とされる現状維持を嫌う人たちこそが「私たちの仲間だ」と宣言しました。スティーブ・ジョブズは社内に向けてこのメッセージを送ったともいわれていますが。 磯貝 その点、日本企業のサステナビリティに関するキャンペーンは個性が弱いように感じられます。 自社がどんな課題を解決してどんな価値を社会に提供している会社か、立場を明らかにして訴求できているのでしょうか。 山口 世の中で「SDGsが大事だ」という風潮が生まれてから、日本企業も一様にサステナビリティを謳うようになりましたね。でも重要なのは、誰も問題提起していないことを先んじて発信することだと感じます。 日本企業も何が好きで何が嫌いなのか、明確なメッセージを打ち出すことで企業のパーソナリティがはっきりしてくるはずです。