「ブランクーシ 本質を象る」(アーティゾン美術館)レポート。日本初の美術館回顧展でブランクーシの全貌を見る
日本の美術館で全容を紹介する初の機会
東京・京橋のアーティゾン美術館で「ブランクーシ本質を象(かたど)る」が開幕した。会期は7月7日まで。担当学芸員は島本英明(アーティゾン美術館)。 コンスタンティン・ブランクーシ(1876~1957)と言えば、マルセル・デュシャン、フェルナン・レジェ、マン・レイ、イサム・ノグチら20世紀以降の美術を形作った様々な人物との影響関係を見ることができる巨匠。だが意外にも、本個展はブランクーシの創作の全容を日本の美術館で紹介する初めての機会となる。 出品作品は、ブランクーシ・エステートおよび国内外の美術館等より借用された彫刻作品約20点をはじめ、絵画作品、写真作品を加えた89点。今回、鑑賞者が作品に集中できるように作品キャプションが置かれていない。そのため作品を取り囲む要素が極力削ぎ落とされた、洗練された空間になっている。
ブランクーシの表現が転換した時代
展覧会は「形成期」「直彫り」「フォルム」「交流」「アトリエ」「カメラ」「鳥」のセクションで構成される。 ブランクーシはルーマニアのホビツァ生まれ。ブカレスト国立美術学校に学んだ後、20代後半でパリに渡った。「ブランクーシは、制作においていきなりモダンな方向に進むのではなくまずは制度的な美術に取り組んだ。そのど真ん中の場所として、パリに飛び込びました」(島本)。 「形成期」から「フォルム」にかけては、活動最初期の《プライド》《苦しみ》などの彫刻作品を紹介。《苦しみ》は、少年が身をよじって苦しみを訴える様子をかたどった作品だが、《プライド》から《苦しみ》へ、その2年間のあいだにも大きな転換が見られるという。「《苦しみ》の表面は平滑で、表面への意識が見て取れます。苦しみを訴える顔の造作は明瞭ではなく、“ものとしての表面”を考え始めた作品ではないでしょうか。それにはロダンの影響もありました」(島本)。 本作が制作された1907年、ブランクーシは「近代彫刻の父」とも称されるオーギュスト・ロダンのもとで下彫り工として従事していたのだという。しかし1ヶ月ほどでロダンのもとを去り、自らの道を見出していく。彫刻にはいくつかの制作手法があるが、そのなかでロダンが採用する「モデリング(彫塑)」のアプローチへのアンチテーゼとして、「カービング(直彫り)」を追求していった。 ブランクーシがロダンのもとを去り、学校を離れ、直彫りを始めた頃の作品が、本展ちらしのメインビジュアルとして用いられ、アーティゾン美術館の開館記念展でも展示された人気作品《接吻》だ。 《接吻》の横には、眠る幼児の頭部を彫った《眠る幼児》が。眠る姿の像は、眠っていても直立させて台座があるものが一般的だったそうだが、それらをなくしてゴロンと“もの”のように見せている。こうした提示方法はブランクーシの本作が初めてだったそうだ。「この時期はブランクーシにとって重要な時期だと考えています」と、島本。プリミティブなものに関する関心が窺える《眠れるミューズ》(5月12日までの展示)と鏡面仕上げのブロンズ像《眠れるミューズⅡ》の2つのヴァージョンが見られる貴重な機会でもある。