マヂカルラブリー野田クリスタルがインディーズを愛しながらメジャーでがんばる理由
自動で野田ゲーを作れる“野田AI”を搭載した、Nintendo Switch用ソフト「スーパー野田ゲーMAKER」が本日12月19日にリリースされた。“野田ゲー”は、ゲーム好きが高じてプログラミングを独学で習得したマヂカルラブリー・野田クリスタルが手がけるゲームのこと。野田は「R-1ぐらんぷり2020」決勝の舞台でこの野田ゲーを使ったネタを披露し、優勝を果たしている。 プレイヤーに話しかける野田AI 手作り感満載の野田ゲーは野田個人のPCゲームとして知られていたが、面白法人カヤックのゲームクリエイター・後藤裕之とのタッグにより、Nintendo Switch用ソフト「スーパー野田ゲーPARTY」(2021年4月発売)、「スーパー野田ゲーWORLD」(2022年7月発売)と商品化。クラウドファンディングの一環で一般ユーザーから寄せられたイラストやBGMなどの素材をふんだんに使用し、手作り感はそのままに多くのファンがプレイできるようになった。 シリーズ最新作の「スーパー野田ゲーMAKER」は、プログラミングの知識や技術、そして特別なアイデアがなくてもゲームが作れてしまうのが特徴。ほかのユーザーが作ったゲームたちの中から気になるタイトルを選んで遊び倒すもよし、アップされているゲームを自分で改造するもよし、楽しみ方はその人次第だ。先日、発売に先がけて取材会が開かれ、この多機能な「スーパー野田ゲーMAKER」を野田が自ら紹介。開発者もどう魅力を伝えればいいか頭を抱える、無限の可能性を持つ「スーパー野田ゲーMAKER」とは? そして、インディーズなものに惹かれる野田がゲームを通じて目指している世界とは? ■ まだ見たことのない面白いものを見たい ──「PARTY」、そしてオンライン対戦できる「WORLD」ときて、今度は「MAKER」を作ることになった理由を教えてください。 世の中には、“変態”がいるんですね。YouTubeや、僕が見ていたニコニコ動画の世界には、1つのものにとんでもなく集中してわけのわからんモノを作る人がいる。それはゲーム作りにおいてもそうで、すごく時間をかけたり、すごく変なアイデアのゲームを作る人がメディアに出ていないだけで実はたくさんいるような気がするんです。(自分の作っている)野田ゲーよりももっと面白いものを作る人がいると思うから、僕はそれが見たい。ゲーム作りって1人で一からやると本当に大変だけど、「野田ゲーMAKER」はいったん、まずゲームが完成してからスタートできる。そこから自分で編集したり、別の人に編集してもらったりして遊べる。世の中のわけわからん奴が作ったゲームを、みんなが遊びまくることができるんです。ゲーム作りが楽になって、ゲームクリエイターが増えてほしいというのが僕の一番の願いです。そして、自分が作ったゲームを人にやってもらうのって超楽しいんですよ。自分が想定していなかった動きとか、「そんな攻略法があったんだ!?」という発見がある。コーナーライブを企画したときに似ています。「そうボケる!?」っていう(笑)。 「スーパー野田ゲーMAKER」は長期的に見なきゃいけないゲームだと思っていて。最初はゲーム本数が少ないから、とにかくまずはクリエイターが増えないといけない。時間がかかるゲームなんです。だからこうして、いろんな媒体で僕が話して、伝えるしかない。命がけです、今(笑)。これ(=取材)が命綱。僕個人のSNSごときではきっと伝わらないので、こういう場がありがたいです。「どうやって伝えればいいんだ」というのはずっと会議してます。難しいです、このゲームの面白さを伝えるのは。こっちが把握しきれていない遊び方もあると思うんですよね。みんながどの部分に魅力を感じるのか、俺もわかんない。試みとして面白いことをやってることは間違いないし、自信はもちろんあるし、楽しめる保証をもって送り出すけど、どこを面白いと思うかはみなさん次第。アイデア次第。もちろん遊ぶだけでもいいです。作られるゲームが増えれば増えるほど、ゲームセンター状態になっていくので。 ■ インターネットと地下ライブで受けた衝撃 ──野田さんは、なんだかわからない、変なものがたくさん存在できる世界に魅力を感じる? 僕は、出身が小規模なんです。ゲーム作りも1人で始めたし、芸人としては小劇場からのスタートでした。小さいものにすごく興味がある。今、ジム(クリスタルジム)もやっているんですが、目の前にいる数人のお客さんとレッスンを一緒にやっていて。そういう、“狭い小屋感”がすごい好きなんです。でもゲーム業界は全部がビッグタイトルで、1本作るのに100億とかかかってくる。そのぶん、たくさんの人が関わると思うんですが、僕はやっぱり個人開発。ゲームも、芸人も(笑)。インディーズが好きなんです、とにかく。インディーズがなくならなければなんだっていい。吉本興業というでっかいところにいて何を言ってんだって感じですが、少ない人たちで小さくやってるのが好きで。それがずっと残るようにサポートしたいんですよね。 巨大デパートだけになったら嫌なんです、僕は。商店街が好きなんです。商店街の存続のために、個人商店に武器を配っている状態です。「これで生き残れよ!」って。そのほうが楽しいじゃないですか。何が生まれるかわからない、予測がつかないほうが楽しい。大人数で作っているといろんな部署に伝えないといけないから、過去にあったもの・見たことがあるものの集合体になってくることもあると思うんです。個人の開発こそが可能性を広げられると思っているので、守るべきはインディーズですね。よしもとだけではお笑い界は発展しなかったはずなんです。いろんな事務所があっていろんなネタを作る奴が生まれたから、大きくなっていった。一応言っておくと、もちろん、よしもとという大きい事務所もあるべきですよ!(笑) ただ、個人にももっと目を向けようよって常に思っていますね。 ──そう考えるようになった原点は? 僕の中で何回かこの現象が起きているんですが、まずはインターネットを始めたとき。「こんなものが世の中にあったのか!」って衝撃を受けた。テレビでは見られない過激なものだったり、テレビでは一生流れないような変なアニメーションが乱立していて。そこにまず感動しました。だから、そのときはテレビを一番バカにしている時代でしたね(笑)。「ネットはもっとすげーんだぞ!」と思っていました。次は芸人になって、インディーズライブに出たときに、モダンタイムスのネタとかを知って、テレビで絶対流れるわけがないけどめちゃくちゃ面白いぞ、見たことないぞ、と足が震えたんです。そういうことがあって、でっかいものに対して「お前はこれ知らないだろ?」という精神があるんですよね。「本当はもっとすげー奴いるけどな、俺は知ってるぞ」と言いたくなっちゃう病というか。そういう思いが強いです。メジャーへの嫌悪感がもともと強かったんでしょうね。……じゃあなんでよしもとに入ったんだっていう(笑)。でも、ゲームもジムも、よしもとに入ってなければやれなかったことでもあるので、不思議ですよね。 ■ ちゃんとテレビでがんばる理由 ──インディーズを愛しながら、「M-1グランプリ」で優勝して、メジャー街道も歩いています。 そうなんですよ。こんなにインディーズがいいって言いながら、ちゃんと賞レースに向き合ってるし、ちゃんと出てるし、優勝もしちゃってるし。優勝しない風な芸風なのに(笑)。「どういう活動をしてるんだ、俺は?」って自分がいつもわからなくなる。でも、自分がメジャーなところに行って、そこでインディーズなものを紹介しているイメージなのかもしれません。彼らは彼らで、別に紹介してくれなくていいと思っているかもしれないけど、でも、俺は良さを伝えたい。そのためにはメディアに出なきゃいけない。だから、僕はゲームとジムをやっていなかったら、実はあんまりテレビに出ていなかったかもしれないなと思っていて。ずっと地下ライブみたいなことをしていたかもしれない。自分がメジャーな部分の露出をちゃんと大切にしているのは、ゲームとジムが繋いでくれていると思います。結果、それがよかったと思いますね。テレビに出られているし。野田クリスタルがテレビに出られるなんて誰も思っていなかったと思いますよ(笑)。テレビに馴染んで、ちゃんとVTRを見てコメントするなんて全員思ってなかったと思う。それは本当にゲームやジムのためでしたね。 ──小さい変なものたちのためにがんばる野田さんがいるわけですね。 がんばりたいとは思ってます。余計なお世話かもしれませんけど。 ■ 自分で“売る”までやる ──今後の展望は? とにかく「野田ゲーMAKER」が盛り上がらないといけない。で、「MAKER」がどうやったら盛り上がるのかという話になってくる。それがわかったら話は早いんですよ(笑)。いろいろ模索しているんですけど、どうしたらいいんだろうなあ~?って思ってます。うーん。とにかくがんばるしかない。ごちゃごちゃ言ってますけど、やれることを手当たり次第やっていくしかないっていう結論に至りましたね。それが全部失敗で、意味ないかもしれないけど、やるしかない。何が意味あるかがわからないので。 ──開発者であり、広報でもある。全部ご自身でやるんですね。 「お前がやるっつったんだろ!」って声が聞こえてくるんですよ。ゲームにしろ、ジムにしろ。だから自分で動いてます。“やる”ってことは、“売る”ってことだから。だから、俺は“売る”までやらなきゃいけない。でもそんな能力がないので、本当に手探りです。ネタ作りだったら自信を持って「これがいい」って言えるんですけど、こういうのはやったことがないので。 ──いろんな変なゲームが集まるプラットフォームなわけですよね。それを野田さん流に一言で表現できますか? そうなんですよね。その言葉をみなさんから募集しようかな……。一言欲しいですよね。要は、“野田ゲー超え野田ゲー”を作ってほしいということなんですけど。 ──「俺を超えてゆけ」みたいな。 「俺を超えろ」「お前がR-1チャンピオンだ」。でも実際、先行プレイで別の方にゲームを作ってもらっているんですが、僕が作った「R-1」のときのピンネタのゲームより面白いです、普通に。だから、誰でも作れるんだなーと。僕はプログラミングを勉強してゲームを作った、までなので。そこからは誰でもいけます。 ──誰でも野田さんを超えられる。 超えられます。アイデアがなくても作れるので。空っぽ、手ぶらで作れる。初めてゲームを作ったのは小学生のときで、RPGだったんですけど、「うんこ」と入力したところ、主人公が「うんこ」と発したことに感動で気絶するかと思いました。「何やってもいいじゃん! すごくないか!?」と。すごく可能性を感じて、熱中したんです。でも、1カ月かけて作ったゲームも5分で終わる。ゲーム作りって本当に大変で。その0から1にする作業をやってくれる「野田ゲーMAKER」は、自分で“ネタ”作りしなくていいから超楽なんです。今思えば、ひたすらパソコンの画面に文字(コード)を打ち込んでゲームを作っていた自分は変態すぎるなと。なんだったんだあの時間は(笑)。