なぜ松下洸平の演技は心を揺さぶるのか? 視聴者を虜にする魔法。ドラマ『放課後カルテ』で光る、松下洸平の演技の魅力を解説
NHK連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)をはじめ、幅広い役を演じてきた松下洸平。現在放送中のドラマ『放課後カルテ』(日本テレビ)で主演を務め、口も態度も悪い小児科医が、子供たちの背中を押す姿が早くも話題となっている。今回は、松下洸平の代表作を振り返り、観る人の心を揺さぶる稀有な演技の魅力に迫る。(文・まっつ) 【写真】松下洸平の演技に震える…。貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『放課後カルテ』劇中カット一覧
なぜ松下洸平が演じるキャラクターの虜になるのか
僕は松下洸平が大好きだ。 単純に顔がかっこいいとか、声がいいとか、柔らかな雰囲気が素敵とか理由はいくつか挙げられるのだが、「なんで?」と聞かれたら、一瞬どれを選ぶか躊躇してしまう。それは、松下洸平は自身が持っているひとつひとつの武器をバランスよく使っているからかもしれない。 松下がどれかひとつの要素を強く打ち出して役に取り組んでいることはあまりないのではないだろうか。だから、容姿の良さがまず1番に来るような“イケメン俳優”と呼ぶのはなんだか失礼な感じがするし、“個性派俳優”と評するのもはばかられる。つまり総合的に好きなのだ。 ただ、ここまで愛を表明しておいて恐縮だが、筆者は松下の“古参”ファンとは到底名乗れない。彼の存在をしっかりと認識したのは2021年のドラマ『最愛』(TBSテレビ系)からだし、以降も出演作品を欠かさずチェックしているわけではない。 それでも、堂々と松下を好きと言えるのは、彼が演じるキャラクターの虜となってきたからだ。
松下洸平の魅力に取り憑かれた『いちばんすきな花』
松下の代表作にまず挙がるのは前述の『最愛』だろう。松下は、無骨な男臭さもありながら、朝宮梨央(吉高由里子)を常に思いやる優しさも持つ刑事役・宮崎大輝を熱演。刑事らしい鋭い目つきと、信頼する人の前でだけ発する温かい声色を併用することで、鮮やかなギャップを生み出し、多くの人を“大ちゃん沼”へと誘った。 だが、個人的に一気に松下の魅力に取り憑かれたのは、2023年の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)での春木椿役だ。 椿は頼まれ事を断れない、絵に描いたような「いい人」で、松下のパブリックイメージとも重なる部分は大きい。一方で、この先会うことがないと感じた人に対しては気兼ねなくおしゃべりとなり、たばこを吸わないのに喫煙所を訪れるといった奇妙な部分も併せ持っている。 文字だけでキャラクターを説明すると、一見いびつな人間が浮かんでしまうのだが、松下というフィルターを通すことで春木椿はくっきりと浮かび上がってくる。 とりわけ椿を魅力的なキャラクターたらしめたのは、その無自覚なかわいさだ。松下は黙っているとクールに見えやすい塩顔であり、例えば前述の宮崎大輝役は、そのような側面も含まれていた。 だが、椿からはそういった要素が一切排除されている。単純に髪型をきっちりと決めていないビジュアルの影響もあるが、柔らかな声のトーンと包み込むような雰囲気で佐藤紅葉(神尾楓珠)との距離を縮めるシーンはドラマの癒やしとなっていた。 一方で、椿はただかわいい、優しいだけのキャラクターではない。幼い頃から枠から出ないように「いい子」であろうと努めてきており、実際には風変わりな一面も持つ。松下は、生きづらさを吐露する場面では喋りの速度を上げて椿の多面性を表現しており、改めて彼の高い演技力に心を奪われた。