大森時生×酒井善三「フィクショナル」舞台挨拶に「ベビわる」阪元裕吾監督が登壇!殺し屋シーンを称賛「ムードがちゃんとできていた」
「行方不明展」「イシナガキクエを探しています」を手掛けた大森時生プロデューサーが、酒井善三監督とタッグを組み初プロデュースしたBL(ボーイズラブ)ドラマ「フィクショナル」が11月15日より劇場公開されている。11月26日の上映後には大森プロデューサー、酒井監督と共に、「ベイビーわるきゅーれ」シリーズの阪元裕吾監督が登壇し、トークイベントを行った。 【写真を見る】使える弾は4発だけ?!低予算での制作裏話に観客も大爆笑 動画プラットフォームBUMPで配信開始するやいなや、BL作品としては異例の緊張感溢れる不穏さで大きな話題となったドラマ「フィクショナル」は、黒沢清監督も“近年もっとも不気味な映画”と絶賛した短編映画『カウンセラー』(21)でSKIPシティ国際Dシネマ映画祭 SKIPシティアワードを受賞した酒井が、「このテープもってないですか?」「SIX HACK」でも組んだ大森との再タッグで手掛けたドラマで、怪しいディープフェイク映像制作の下請けの“闇バイト”を通して、リアルとフェイクの境目に堕ちていく映像制作業者の物語を描いている。 「まず、題材がおもしろい!」と話した阪元監督は、着眼点について興味津々の様子。酒井監督と大森がこれまで一緒に手掛けてきた作品にはずっと“フィクション”がテーマにあったとし、今回もそれをテーマにすることを決めたそう。「ただ今回は、大森さんのモキュメンタリー的な仕掛けはなく、そのままフィクションをやるという形」とこれまでとの違いを指摘した酒井監督だったが、「映像をやっているけれど、ディープフェイクの映像技術には詳しくなくて。『どうやってやるの?』みたいなことがたくさんありました」と制作を振り返り苦笑い。 大森も「リアルにはあんな牧歌的なディープフェイクは存在しない(笑)。そもそもグリーンバックを入れるのか!ってところがある」と笑い飛ばしていたが、ディープフェイクは日々進化しているそうで、「シナリオを書いている時には、まだなかったはずのリアルタイム生成のディープフェイクが出来つつあるみたいなことを、最近Xで知って…」という酒井監督のコメントに対し、大森は「追いつかれたというか、追い越されたというか。現実のディープフェイクと闇バイトの現状が悪化しているという印象があります」とも話していた。 阪元監督からの「あのラストは、どういう感情で作っていたのかが気になります。『絶望』とか『嫌だな』って気持ちで書いていたんでしょうか」との質問に、「リアルの世界では本当に『嫌だな』と思うけれど、フィクションだとノリノリで(笑)」と回答した酒井監督。ネタ元は昔観た映画だったそうで、「サスペンスとか探偵ものの映画には『どういう話だったのかわからない』というものが結構ある。そういうノリでいいや!という感じで書いていました」と脚本制作時の心境を明かした酒井監督に「ノリで?」と驚いた様子の阪元監督。大森は「下請けの下請けの下請け…みたいな主人公の話かと思っていたけれど、最後はそんな大きな話なんだって(驚いた)。世界全部の物語だったんだって」と補足。阪元監督もその壮大さに触れ、「『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』みたいな」と例えると、会場から笑い声が起きる場面もあった。 「スマホであれだけ情報の世界を描くっていうおもしろさがあると思っていたら、後半にはちゃんと殺し合いもあって」との阪元監督の言葉に、「阪元監督の前で殺し屋の話をするなんて、お恥ずかしい限りです」と恐縮した酒井監督。「銃のシーンは難しい!」と嘆いた酒井監督は「お金との戦い。予算がなかったから4発しか撃たないと決めていました」と告白し、予定通り4発しか使わずに撮影を終わらせたキャストに感謝。 すると大森が「すごく雰囲気がいい現場だったのですが、このシーンを撮影した帰り道に、『実は12発までは同じ金額かもしれない』という話が出て。一瞬だけ険悪になりました。『もっと撃てたじゃん!』って」と裏話を暴露。 「12人殺せたのに、遠慮しちゃったみたいな雰囲気になって(笑)。照明のフラッシュなどを使って、我慢してるところもあったのに…とか、いろいろと」としょんぼりした酒井監督に阪元監督は「あっぱれです!大変なことが起きているぞ、というムードがちゃんと出ていました」と称賛。ちなみに実際には、銃弾4発と同額で12発まで撃てるという情報は間違いだったそうで、険悪なムードはほんの一瞬だったと補足し、会場を沸かせた。 「空間が跳ぶ演出が、相変わらずすてき!」と感想を伝えた阪元監督は、前作『カウンセラー』の時も同様の感想を持ったそうで、本作では歩道橋のシーンでの瞬間移動が強烈に印象に残ったとのこと。酒井監督は「インタビューでも話したことなのですが、あまり触れられていなくて悲しくなっていました」とし、阪元監督が指摘してくれたことに「編集が大変だったわりには触れられなくて。いま、救われました!成仏できそうです」と大喜び。 制作過程を聞いた阪元監督が「『カウンセラー』も、絵コンテがしっかりあって理性で撮っている作家さんなのかなと思っていたんですけれど、(話を聞いている限り)動物的な勘や現場で起きたおもしろいことを大事にされているんですね」と印象の変化を語り、酒井監督が照れまくる場面もあった。 トークベントが終わると観客に写真撮影をリクエストした酒井監督と大森。「宣伝会社が入っている作品ではないので、クチコミが頼り」とし、「ぜひ、宣伝をお願いします!」と観客に呼びかけていた。 取材・文/タナカシノブ