大人も夢見るクリスマス映画『レッド・ワン』のクリエイティブを鈴木おさむが絶賛。「サンタが存在する完璧な世界観に脱帽」
ドウェイン・ジョンソン主演の最新作『レッド・ワン』が公開中だ。本作は、クリスマス・イブを目前に、誘拐されたサンタクロース救出作戦を描いたアクションアドベンチャー・コメディ。「アベンジャーズ」シリーズのキャプテン・アメリカでおなじみのクリス・エヴァンスを共演に、アドレナリン全開の大冒険が繰り広げられる。そんな本作を鈴木おさむが深掘り解説。サンタ救出と並行して展開する父と子の絆のドラマを自身の体験を交えて語るなど、独自の視点で魅力や見どころを解き明かしてくれた。 【写真を見る】「サンタがプレゼントを配送する描写はAmazonそのもの(笑)」大人も楽しい『レッド・ワン』のおもしろポイントを鈴木おさむが解説 クリスマス・イブの前夜、サンタ護衛隊長カラム(ドウェイン・ジョンソン)の目の前でサンタクロース(J・K・シモンズ)が誘拐された!クリスマス中止の危機が迫るなか、カラムはサンタの存在を信じない世界一の追跡者で賞金稼ぎのジャック(クリス・エヴァンス)とコンビを組まされ、サンタの行方を追うことに。やがて彼らはサンタ誘拐事件に、邪悪なクリスマスの魔女が関わっていることを突き止める。 ■「完全無欠じゃないドウェインに対し、“キャプテン・アメリカか!”と思うくらい強いクリスが痛快」 本作を観終えた鈴木がまず惹かれたと語るのが「クリスマス」という題材だった。「昔からクリスマス映画が好きなんです。それこそ『三十四丁目の奇跡』から『ラブ・アクチュアリー』、公開は夏でしたが『ダイ・ハード』など、クリスマス映画をクリスマスの日にみんなで観るのが楽しくて。近年もワム!のクリスマスソングをモチーフにした『ラスト・クリスマス』がありましたが、ここ数年は世界的にハロウィンのほうがムーブメントになっているように感じます。多くの人々が幸せな気分になれるクリスマスの映画が少ないなか、サンタクロースがいることを絶対前提にした設定がおもしろかったです」と楽しそうに振り返る。 アクション、スペクタクルを中心にヒット作を連発しているドウェイン・ジョンソンが本作で演じているのは、サンタクロースの護衛隊長カラム。唯一無二の存在であるサンタに同行し、危険が及ばないよう常に目を光らせているSPだ。ただし、そのキャラクターは定番の“200%完全無欠のヒーロー”ではない。「ドウェイン・ジョンソンが演じる役は、いつも無条件に強いじゃないですか。でも意外なことに今回は弱さを持っていて、殴り合いで負けそうになるなど、絶対的な存在ではないんです。そんな彼が護衛隊長を辞めたいと思い悩んでいるところからのスタートで、人間味ある姿が意外でおもしろかったですね」という鈴木は、本作でプロデュースを兼ねているドゥエイン・ジョンソンはあえて一歩引いた役どころにしたのでは、と推測する。 カラムの相棒を務める賞金稼ぎのジャック役は、キャプテン・アメリカで世界にその名を知らしめたクリス・エヴァンス。近年はコメディからダークな役まで幅広くこなしているが、明快なアクションヒーローからはやや距離を置いていた。「カラムとコンビを組むジャックは、ハッカーなのに“キャプテン・アメリカか!”と思うくらい強くて、思わず笑ってしまいました」とヒーロー映画好きな鈴木はその活躍を絶賛。「いつもの強さがないドウェインに対し、クリスは観客が求めているキャラクターそのもの。彼がここまでアクションを見せるのは久しぶりで、途中でシールド(盾)を投げるんじゃないかと思うくらい痛快でした。そんな2人が力を合わせて戦う展開はもちろん、ワンダーウーマンをネタに使うところも洒落ていましたね」。 ■「従来のサンタクロース=穏やかなおじいちゃんというイメージを覆された」 ヒーローコンビと共に、想定外の大活躍を見せるのがJ・K・シモンズ扮するサンタクロースだ。“レッド・ワン”のコードネームを持つ彼は、イブの夜に世界中の家々にプレゼントを届ける子どもたちのヒーローとして登場する。 「このサンタがこれまでのクリスマス映画にはいなかったようなキャラクターで、毎年恒例の大仕事に向け、それこそカラム以上にめっちゃ身体を鍛えてます。それだけプレゼント配りが体力仕事ということですね。従来のサンタクロース=穏やかなおじいちゃんというイメージを覆されました」と笑う鈴木は、そのキャラクター設定は、本作を製作したAmazon MGMスタジオと関係があるはずと指摘する。「世界中にプレゼントを届けるサンタの舞台裏のお話ですから、そのままAmazon(笑)。配送センターに集まったプレゼントをサンタが配って回る姿を、Amazonに引っかけているのが洒落ていますね。一軒一軒プレゼントを配送する姿も見せ場になっていました」。 また、この設定はファンタジーに不可欠な要素でもあるという。「流行るファンタジーは現実と結び付く着地点を持っています。プレゼントを配るサンタをAmazonに重ねることで『このお話、本当かも?』と感じさせることはファンタジーの入り口として大切だと思います」。 ■「この世に存在しない世界を作り上げるのはものすごい労力が必要」 本作は原作のないオリジナルストーリー。原案は『ワイルド・スピード スーパーコンボ』(19)や『ジュマンジ ネクスト・レベル』(19)など、ドゥエイン・ジョンソンと何度も組んでいるハイラム・ガルシアが執筆したもの。今年3月まで放送作家としてテレビを中心に映画や舞台の脚本家としても活躍してきた鈴木は、本作がオリジナル作品であることも高く評価する。 「オリジナルを作るのは本当に大変な作業で、特にファンタジーのように、この世に存在しない世界を隅々まで作り上げるのはものすごい労力が必要です。『ONE PIECE FILM Z』の脚本を手掛けた時にも、やはり原作の設定があるありがたみを感じましたね。それでも映画オリジナルのZのキャラクターを作り上げていくのは大変な作業でした。この作品ではサンタはどんな町に住んでいるのか、そこでどういう人たちが働いているのか、世界観や設定すべてを0から作っています。サンタに弟がいるという設定で兄弟の確執のドラマを膨らませたり、 おもちゃを大きくするビームや逆に体を小さくする光線といったアイデアや、それを伏線に使っていたりと脚本家や監督、スタッフたちのクリエイティブな仕事に驚かされました」と賞賛を惜しまない。 ■「たった2時間の映画も2人のイベントになって、僕には大切な時間です」 サンタをめぐる陰謀に加え、本作はジャックと別居中の息子ディランの父子が絆を紡ぐドラマも重要なモチーフになっている。「以前は片親といえば“シングルマザーの母と息子”という設定が主流でしたが、アメリカの時世なのか、ここ数年は父と子どもの関係を描いた映画が増えているように感じます。興味深かったのは、ディランが事件に巻き込まれる原因を父親が作ったこと。自分の悪い行動によって息子が巻き添えになってしまう展開に、ハッと我が身を振り返る人も多いのではないかと思います」。そう話す鈴木自身も9歳の息子を持つ父親だが、鈴木家の父子関係は良好のようだ。「息子と一緒によく映画館に行くんです。去年は年間19本、今年は少し本数は減りましたが10本以上一緒に観に行きました」。 最初に2人で行った映画は息子が3歳の時の『ジュラシック・ワールド』(15)。恐竜好きだからと連れて行ったら「怖すぎる!」と泣いて怒られたというが、2人はその後も映画館に通い続けた。「最初は映画館に行くとポップコーンが食べられるというのが息子のモチベーションでした。2人で出かけ、観たあとはグッズを買ったり感想を話し合ったり、ゲーセンに寄ったりしているうちに、親子の距離が縮まりました。体験を共有して、感想を聞くことで、いまはこんなことを考えてるのかと気付いたり、子どもの成長もよくわかります。たった2時間の映画も2人のイベントになって、僕には大切な時間です」と、映画体験の大切さを教えてくれた。 ■「日本とアメリカのエンタテインメントは、発想の幅が違います」 ハリウッドらしいアクションエンタテインメントとして完成した本作。9月から配信がスタートした「極悪女王」の脚本とプロデュースも手掛けている鈴木に、日本とアメリカのエンタテインメントの違いをどう感じるか聞いてみた。「やはり発想の幅でしょうね。日本はハリウッドに比べどうしても予算が厳しいので、発想のゼロイチの幅の広さを実感させられます」という鈴木だが、こだわりを捨てずに通すこともある。「80年代が舞台の『極悪女王』にはいまの時代にないものが必要で、それを再現するにはかなり予算がかかります。たとえばプロレスのお話なので、試合シーンでは会場のお客さん全員を80年代の人々にしなければなりません。当然、何千人もの衣装とヘアメイクが必要になるので膨大な費用がかかり、めっちゃ怒られました(笑)」と振り返るが、結果、こだわりのビジュアルでも高い評価を獲得している。 創作活動をするうえで、映画からインスピレーションを受けることもあったという鈴木。『レッド・ワン』も現在抱えている仕事に影響を与えるかもしれない。「幼いころに見てきた大映ドラマに影響を受けたドラマを書いたこともありましたし、この映画もなにかヒントになるかもしれないですね。台本にかかわらず、設定がおもしろい映画は仕事のヒントになりますよ」。 もう一度、本作を息子と映画館で観てみたいという鈴木にお気に入りのシーンを聞くと、クリスマス映画に不可欠なサンタクロースの場面を挙げた。「サンタがプレゼントを配るシーンはとにかく秀逸でした。実際に配る様子を目にすると、本当にサンタは大変な仕事だと改めて思いました。 ドウェイン・ジョンソンはもちろん、クリス・エヴァンスの久しぶりに振り切った“ドアクション”が味わえるだけでなく、かっこいいお父さんを演じてくれていること、ルーシー・リュー(サンタ救出部隊のリーダー、ゾーイ役)のアクションが見られたのもうれしいですね。もう一つ、この映画はタイムサスペンスなんですよ。イブまで24時間、果たしてサンタを取り戻すことができるのか?その展開も楽しみました!」。 取材・文/神武団四郎